「昔の恋人・・・そうだな。あんたは少し昔の恋人に面差しが似ているんだ・・・」

「メロドラマにある様な口説き文句だな」
しばらくして、真島が言った。
俺はライターを弄びながら、
「陳腐で悪かったな」
といった。
「いや・・・どうりで・・・」
真島は外したサングラスをテーブルに置くと、じっと俺を見つめた。

「なんだよ」
居心地が悪くなり、俺が咎めると、
「俺も本当言うと、あんたとはどっかで会ったような気がするんだ。どうしても思い出せないんだが・・・歳も違うしな・・・」
「無理に思い出さなくていいよ。きっと、忘れたいんだろう」
「いや」
真島は俺の襟首を掴み、自分のほうに引き寄せた。

自然な動作だった。
真島の唇が、俺の唇に触れた。
俺はライターを取り落とした。
俺は目を閉じる。真島の舌が入り込んできた。冷たくて、激しいキス・・・。
真島は俺の襟首をひっぱったまま壁際に押し付けると、いきなり服を引き裂いた。
はじけたボタンがばらばらと床に散らばった。

ちょ、警官の制服だぞ!
俺は、激しい目で真島を睨んだが、真島は平気な顔で、俺の首筋を嘗め回す。
動悸が激しくなって、ちょっと息が出来ない。
真島・・・。真島なのか?俺の・・・。

確かめたければ、寝ればいい、と甘利は言った。
それを実践しようと思ったわけじゃないが、確かめたい気持ちは募る。
「ちょ・・・待て・・・待ってくれ・・・」
「嫌だ。焦らすなよ。タチ悪い」
「そんなんじゃない・・・」
「誘ったのはあんたのほうだ。今更逃げるなよ」
ベルトを外す。俺はそのまま腹のほうを壁に押し付けられた。
息を呑んだ。
真島は、後ろからいきなり入ってきた。
「う・・・ま・・・まじま・・・あぁ・・・」
小さなうめき声が漏れる。上ずっていて、自分の声とは思えないくらい淫靡だ。
「いい声で鳴くじゃないか・・・」
真島が囁く。ひどく愉しそうに。

「本当言うと、初めてあった時からあんたのことは気になっていたんだ・・・妙な胸騒ぎがしてな・・・中学生みたいに、喉がからからに渇いた・・・あんたが、欲しくて。こんな気持ちは初めてだ・・・」
生まれ変わっても、ジゴロの口説き文句は健在らしい。
壁に額をつけながら俺は、俺を激しく穿つ真島に、一瞬殺気を覚えた。
安っぽい甘い言葉が欲しいんじゃない・・・。
俺は、お前が本当に真島なのか、確かめたいだけなんだ・・・。
「・・・はぁっ・・・あ・・・!」

声が外に漏れないように、俺は歯を食いしばった。
そうしていないと、自分がどこにいるのか、わからなくなりそうだった。









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