「真島は俺のことなんて何一つ覚えちゃいない。ただ雰囲気が似てるっていうだけの、きっと別人だ・・・」

「そうかよ」
甘利は物憂げな目になった。
「俺たちはそれぞれ、仲間に会えるように昔の名前を名乗ってる。真島ってのは、あんまりよくある名前じゃないしな・・・」
「よくある名前だよ!」
甘利は煙草を銜えたまま、煙を吐き出して、
「別人にしちゃ、拘ってるからさ」

痛いところをつく。
そうだ。俺は、真島が真島なんじゃないかと疑っている。
今は忘れてても、いずれ思い出してくれるんじゃないかと・・・。

「だが、思い出したところで、奴がヤクザであることは変わりないぜ」
「わかってるよ」
「もう寝たのかよ」
「寝・・・」
甘利の露骨な言い回しに、思わず赤面する。
「・・・てない」
「じゃあ、さっさと寝ろよ。そうすれば、確かめられる」
「・・・確かめて、どーすんだ?」
「二重にスッキリするだろ?」
「卑猥な言い方をするな」
俺は不貞腐れて、唇をゆがめた。
「真島はノンケだ。故郷にちゃんと妻子もいる・・・こないだ、調べた」
「調べが足りてないようだな。奴は両刀だ。お前を見る目・・・」
「口説かれたことはない」
ムッとして答えると、
「だろうな。警戒してるのさ。気安くても、こっちは警官だからな」

警官。
皆、警官になった目的は同じだった。
国家の機密にアクセスできる・・・。D機関のことも調べられる。
戦前の陸軍と、今の警察機構は驚くほど類似している。
ついでに、古い仲間の情報も集められる・・・。

「それにしても、波多野が子育てねえ・・・、あいつ、変わったな」
甘利は煙を吐きながら、しみじみと言った。
そうだ。確かに変わった。以前の、触れれば断つといったような殺気も感じない。

だが、それは俺たちも同じかもしれない。
前世の記憶は持っていても、同じ人間ではないのかもしれない・・・。
俺は自分の左耳のピアスをそっと撫ぜた。



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