「200億稼いだなら、2億損したって大丈夫なんじゃないのか?」

「そういうわけにはいきませんよ。2億は2億ですから」
波多野は再びパソコンの画面に眼を向けた。
グラフが見える。株の値段の変遷だろう。

「おぎゃあ!」
赤ん坊が泣き始めた。
「ああ、オムツだ・・・ちょっとごめんなさい」
実井は赤ん坊を抱えて、次の間に移動した。
「大変そうだな」
「慣れましたよ。毎日ですからね」
実井は慣れた手つきでオムツを取り替えると、
「最近オムツかぶれがひどくて、オムツを替えたんですよ。いいやつに」
「へえ」
よくわからない。
「赤ん坊は元気そうだけど、波多野があれだな」
「食欲がないみたいで。あんまり食べないんですよね」
「え?赤ん坊?」
「赤ん坊はまだミルクですよ。今は波多野さんの話です」
「ああ、そうか」
確かに顔色も悪い。
病人かと思うくらいだ。
「だけど200億あるんだろ?もう少し広いところに引っ越したら?」
「狭いですか?前と違って風呂もあるし、不便はないですよ」
言われて見れば、まあそうか。
わけのわからない電化製品が多いから、手狭に感じるけど、前の6畳一間に比べたら、8畳と6畳とキッチンとバストイレの今の部屋は別天地だ。

「警官やってるの馬鹿らしくなるな」
「神永先輩はお金のために働いてるんですか」
「まあ、そうじゃないけど」
「200億ったって、まだ使えるわけじゃないから、そんなに実感湧きませんよ」
「使えないの?」
「生活費は貰いますけど、あとは株を購入するのにあてるだけですからね・・・」
実井は難しい顔をした。

「赤ん坊を抱っこしてみますか?」
「いいの?」
実井に渡された赤ん坊は案外重かった。
顔は・・・。
「・・・なんか、似てないか・・・?」
「波多野さんに似てるでしょう?」
「いや、君に・・・」
「僕ですか?」
実井は怪訝そうな顔をした。

つぶらな瞳も、ふっくらした口元も、可愛らしい鼻も、似ている気がする。
「そうかなぁ?僕は、波多野さんにそっくりだと思うんですけどね・・・」
言われて見れば確かに波多野にも似ている・・・か?
「ホントに君らの子供じゃないの?」
「なにいってんですか?」
実井は赤くなった。

















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