「よくここがわかったな・・・」

声を聴いた途端、ゾクリとした。何一つ変わらない、結城さんの声だ。

「見つからないわけですよね。総会屋というのはフェイク。ただの噂に過ぎなかったんだ・・・勿論、故意に流したものでしょうけど」
「真島があんまりしつこいんでな。少し工作した」
「どうして、真島なんです?」
俺は、どうしても聞きたかったことを尋ねた。
「真島を囮にして、俺をおびき寄せるつもりだったんですか」

「貴様は基本的に勘違いをしている」
結城さんは言った。
「あれは真島ではない。面差しが似ていたから、真島と名づけただけだ」
「でも、記憶を消したでしょう?なぜです」
「あれは韓国籍だからな。いわゆる在日だ。子供の頃は随分苛められて、日本を恨んでいた。そういう人物をヤクザにするのは揉め事の種だ」
「そんな理由で?」
「ヤクザはガイジン嫌いの右翼だからな。いわゆる純血日本民族主義というやつだ・・・真島が韓国籍だとばれると、いろいろとまずい。チンピラならいいが、幹部となると」

「皮肉ですね。灯台元暗しというけれど・・・」
つい恨みがましい口調になる。
「別に姿を隠したつもりはない。貴様らがあまりに鈍感なので呆れていたところだ」
結城さんはにやりとした。
「貴様らが偶然警察に採用され、偶然同じ部署の同僚になり、また偶然、昔の名前を名乗るようになったと、本気で思っていたのか?」
「そりゃ・・・たしかに偶然が多すぎますけど・・・」

「名前の分からない貴様らを集めるのはそれなりに苦労した。顔が似ているだけではだめで、前世の記憶がないことには話にならんからな」
「うかつでした。貴方だって俺たちと同じ方法を取ると、思いつかなかったなんて」
「警官の青シャツを着ているうちは、たどり着けまいと思っていた」
「草薙警視総監」
俺は唸るように言った。
「俺は、貴方を恨みます」

「貴様がここにたどり着けたのは、俺が案内状を出したからだ。感謝して欲しいものだな。神永」
結城さんはしれっとして答えた。

案内状。
それは偶然のようにデスクに置かれていた、警察年鑑で、警視総監の写真が大きく載っていた。
顔は似ても似つかない。地味な年配の男・・・だが、耳の形はまさしく、見覚えのある、魔王の耳だった。







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