「夕べはお楽しみだったようだな」

甘利が人の顔を見るなり、言った。
俺は自分の顔が熱くなるのを感じた。


車のシートを倒して、真島は俺に深く口付けた。
荒い息づかい。
真島は片手で器用にボタンを外すと、俺の胸に手を滑り込ませた。
「やめ・・・そこはっ・・・」
「昨日も思ったが、いい身体してるな」
「揉むなよっ・・・」
俺は真島のシャツに手をかけた。
「あんたも・・・脱げよ」
ひとりだけ弄ばれるのはゴメンだ。
ボタンを外し、襟元をはだけると、青い、模様が見えた。
俺は息を呑んだ。
2匹の竜と観音菩薩・・・。
空気を圧するような迫力のある刺青。
真島がヤクザであることの証拠だった。

「・・・だから嫌だったんだ。ま、いいけどよ」
真島は自分からシャツを脱ぎ捨てた。
派手に蓮の花を散らした、曼荼羅。
「だが、俺は気に入ってるんだ。これを見れば、自分が大物なんかじゃない、けちなヤクザなんだって、嫌でも気づかされるからな・・・あんまり大金が転がり込んでくると、俺も勘違いしそうになるのさ」
俺が黙っていると、
「怖いか?俺が」
少し皮肉そうに尋ねた。
「・・・怖くない・・・凄く、綺麗だ」
「ふうん?これをみてそんな風に言う奴は初めてだな」

その言葉に、いままで真島が通り過ぎてきた女や男を思った。
これを見ればただのチンピラじゃない、本物なんだと気づく。
逃げ出す奴もいるだろう。
「他の奴らなんかと一緒にするなよ」
俺は真島の頬に手を伸ばした。
「俺は警官だ。ヤクザなんか怖くない・・・」
「警官に手を出すとは、俺もヤキが回ったな」
「抱いてくれ。強く。あんたが俺のことを思い出すまで」

再び目を閉じると、あとはもう、なにもわからなくなった。
狭いシートの中で、卑猥な音が響き続けた・・・。


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