真島に連れて行かれたのは東京湾だった。
再開発が進み、巨大なビル郡が完成しようとしていた。

「あれは、俺が建てたんだ。でかいだろ?」
真島が言った。
「あんたが?」
「ビジネスにもいろいろあるんだよ」
真島は得意げに胸をそらした。
「完成したら、お前にやるよ」
「はあ!?」
波多野の200億くらい、現実味のない話だ。

「あほか。警官がヤクザからビルなんかもらえるはずないだろう?」
「警官なんか辞めちまえよ」
真島はあっさりと言った。

違う。
こいつは真島じゃない。俺の知ってる真島じゃない・・・。
真島は、他人の人生を金でどうこうしようとするタイプじゃなかった。
スパイという俺の仕事を尊重してくれていた。
だが、こいつは・・・札びらで頬を平気ではたく。
人を虫けらみたいに。

ふいに東京湾のイルミネーションが滲んだ。
「神永・・・どうした?」
真島が驚くのも無理はない。
俺は、泣いていた。

「あんたは・・・俺の恋人じゃない・・・それが、今わかったんだ・・・」
「お前を、覚えていないからか?」
真島は俺の肩を掴み、顔を覗き込んだ。
嫌だ、見られたくない。
俺は顔を逸らした。

「神永、聞いてくれ。昔を覚えてないのは、俺のせいじゃないんだ。俺は、ある人に記憶を盗まれたんだ・・・そのせいで、俺はこの仕事を抜けることができない・・・それはいいんだが、記憶を取り戻せればたぶん、お前のことも思い出せる。そんな気がするんだ・・・」
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