「あの警官、辞めたんだってな」
真島が言った。
「え?ああ、波多野か。うん・・・地獄耳だな」
俺は曖昧に答える。

「で?辞めてなにしてんだ?部屋に引きこもって」
「調べたのか?」
「仕事だからな」
真島は煙草に火をつけた。

「噂によると株のトレーダーになったらしいんだ」
「株?仲買人か」
「株の売買で随分儲けた様だ」
「株ねぇ・・・警官もやることはヤクザとかわらねぇな」
真島は考える目をした。
「だが、そんなもの続かんだろう」
「どうかな?波多野はちょっと変わってるんだ・・・オタクっていうか・・・凝り性というか。なんでも極める性格だから」
「株で飯が食えれば、こんなにうまいことはないが・・・」
「心配してるのか?赤ん坊とは血のつながりはないんだろう?」
「まあな。蘭丸は弟だが、血のつながりはない」
「だったら」
「金が途切れたら困るからな」
煙草をふかすと、真島は天井を仰いだ。


「神永先輩」
アパートを訪ねると、実井が顔を出した。
手に、赤ん坊を抱いている。
「それがキララ?」
「みのるです」
「ああ、みのるだっけ。よく太ってるな」
「ミルクだから太るんですよ」
「母乳でないの?」
「神永さん、セクハラです」
「ごめんごめん☆」
「波多野は?」
「今ちょっと手が離せなくて」
2間の続き部屋。奥にいるらしい。
「神永先輩ですか。あがってください」
奥から声が聞こえた。波多野だ。
「一日中、ああなんですよ」
実井は唇を尖らせた。
「君は?大学は?」
「半年間休学することにしたんです。ちょっとまだ、目が離せなくて」
赤ん坊を抱く様子が様になっている。
まるで・・・本物のママみたいだ。
擬似家族、という言葉が浮かんだ。
「それで、儲かってるの?」
「昨日で200億くらい儲かりました」
実井は真面目に答えた。
「200億・・・?」
なんだその現実感のない数字は。
奥の部屋に入ると、波多野がげっそりとやつれた顔で、パソコンの画面に見入っていた。幽霊みたいだ。
「神永さん」
波多野が顔をあげた。
「飯食う時間も惜しくて・・・今日は2億くらい損をしました。でも。取り返しますよ」












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