「結城さんが褒めてましたよ。波多野はなかなか優秀だって」

「それはどうも」
「ライバル会社の情報を抜き取る技なんか、スパイ映画みたいですもんね。凄腕のハッカーってのは、嘘じゃなかったんですね」
「信じてなかったのかよ」
「これからもその調子で頼みます。それはそうと」
実井は、一旦言葉を切って、
「今日も福本さんの家に帰るんですか?」

「なにか不都合でも?」
福本が割って入った。
「いえね。いつからおふたりはそんなに仲良しになったのかなぁって、思っただけですよ」
「余計なお世話だろう。波多野。帰るぞ」
「あ、ああ」
頭痛薬がきれたのか、また腰が痛み出した。
「腰が、どうかしたんですか」
目ざとい実井が、俺を見てそういった。
「なんでもない。ちょっと痛めただけだ」
「フウン?大変ですね。お大事に」
心のこもらない調子で言って、
「うちの会社、寮もあるんですよ。良かったらどうぞ」
同じ調子で、そう告げた。

「未練があるのは実井も同じらしいな」
福本が運転しながら言った。
「別に、俺はもう・・・」
「スーツも買ってもらって、ラブラブじゃないか」
嫌味だ。
「代金は給金から引くといっていた」
「どうだかな。そのスーツ、30万はするやつだ。ネクタイと靴、しめて50万といったところだな。2ヶ月はただ働きだ」
げっ・・・そんなにするのか。
「実井の奴、貴様を借金漬けにして、言うことを聞かせたいのだろう。ヤクザのやり方だ」
「貴様も人のこと言えんだろーが」
夕べのことを根に持っていた俺は、小さな声で言った。

「俺の家に帰るのは嫌か?」
急にブレーキを踏んで、福本は俺を振り返った。







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