「俺が下心もなく、お前を泊めると思うのか?」
「福本」

冗談にしてもどうかと思うが、福本は至って真面目だ。
「どうかしてるよ。貴様は大体、俺から実井を奪っておいて・・・俺はまだ許したわけじゃ・・・」
あれよという間に、コタツの横に押し倒された。

「実井とは2回寝ただけだ。特に意味はない」
「貴様にはなくても、俺にはあるよ。・・・」
「大戦中の話だ。もう時効だろ」

実井とは仲たがいしたままだった。俺には実井を許せなかった。
愛していたから。
怪我が治ると、俺は再び実井の前から姿を消した。

「俺と貴様が寝ても、それにも意味はないんだろ・・・」
寂しいことを言う。
確かに、愛がなければセックスなんて、ただの欲望のはけ口だ。
オスとオスの、性欲の処理。ただそれだけの。

「意味が欲しいなら、俺を愛せばいい」
福本が言った。
そうして、俺に口付けた。

「よせっ・・・!やめろって・・・こんなの・・・!!」
「抵抗はよせ。興奮するだけだ」
「やだって・・・」
耳元に息を吹きかけられると、力が抜ける。
「いい子だ」
福本の低いバリトンが、魔術のように俺の耳に囁きかける。

「今まで孤独だったろう?誰にも理解されず、誰も理解せずに、生きてきたんだろう?理解しあえるのは同じ傷を持つ同士、俺たちだけだ・・・俺たちの思い出、俺たちの過去、俺たちの痛み・・・それだけが俺たちを癒す」

再び福本が俺の口に口付けた。
俺は、蛇に睨まれたカエルのように身動きさえできずに、それを受け入れた。
見えない鎖がおれのからだを縛りつけ、心を溶かした。
そうだ・・・俺はもう孤独じゃない。同じ過去を持つもの同士、互いの秘密を分け合える。遠き日の幻が、目の前に迫ってきた。実井のはじけるような笑顔・・・。
福本。俺は愛しているものさえ、貴様と共有したんだ。







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