「波多野?」

廊下で、実井と擦れ違った。

「うちに入るのか?」
「まあね。貴様、結城さんの秘書だって?フウン」
「なんだよ」
「別に」

気まずい空気を感じて、俺は言った。
「情報処理室はこの先だ。急ごう」

部屋に入ると、壁一面をスクリーンになっている巨大なパソコン部屋だった。
株価、為替相場、国内総生産。ありとあらゆるデータが、生き物のように蠢いている。
「神永はまだ来てないようだな」
「データ処理は神永がやっているのか?」
「ああ。実井もだ。今はサイバー戦争だからな」

「・・・実井は、結城さんの愛人?」
「気になるのか」
「別に・・・」
「実井はもともと結城さんのシンパだ。今更じゃないか?」
「そうだけど・・・」

現場を見たわけじゃないが、実井が結城さんに心酔しているのは確かだ。
結城さんのためなら、身体くらい開くだろう。

「三好が見つかったからな。実井の出番はないよ」
「三好ってあの学生だろう?あんな子供じゃ・・・」
「結城さん自身若くなってるからな。気にならんだろう」
波多野だって、格好をみれば学生のようだ。

「これだけの資金力があれば、世界を操れるな」
波多野が呟いた。
「資金は投資で増やしているんだ。なかなか面白いよ、現代というのは」
俺が言った。
「それで、結城さんは世界をどうするつもりなんだ?」
「あの人が何を考えているのか、俺にはさっぱりだ」
俺は正直に言った。

D機関を再構築して、結城さんは何を企てているのだろう。
ふいに、世界の破滅、という言葉が思い浮かんだ。







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