「やめ・・・ろっ・・・!!離せっ・・・俺は仕事が・・・」
「遅刻するって連絡しといた。後で送っていくよ。俺のベンツで」
「はぁ!?そんなことしたらバレバレだろうが!!」
俺にのしかかっていた甘利は、急に冷たい目をした。
「ふーん。俺との関係をばらされたくないんだ」
「あっ、当たり前だろう!!」
頭が痛い。
結城さんに、甘利との関係を知られると思うと、ぞっとした。
「結城さんには知られたくないんだ」
表情を読み取って、甘利は言った。

転生して、酷く心細かった。神永としての記憶は俺を苦しめた。
いつも現実感がなくて、夢の中を生きているようだった。結城さんに会うまでは。
「悪いな。一夜限りの思い出にされそうで、俺も少し焦った」
甘利が言った。
「そんなつもりは・・・ただ、これからどうしていいか・・・」
「時間はたっぷりある。二人で悩もうぜ。会社に行けよ。送ってはいかない」
甘利は明るく言った。


「俺、ここに住もうかな」
波多野が意外なことを言い始めた。
「何を言ってるんだ。自分の家はどうした」
「俺、家出してネットカフェを転々としてたんだ。パソコンさえあればいいからさ。でもやっぱり落ち着かなくて。ストーカーみたいな野郎もいるし」
「ストーカー?」
「俺からだが小さいからかな。よく痴漢に会うんだ」
波多野は腕を頭の後ろに上げたまま、そういった。
D機関で一緒だった波多野は、寝泊りも同じ部屋で、ありていにいえば弟みたいなものだ。そういう話を聞けば、俺の保護欲が蠢く。
「別に部屋は空いているが・・・」
「ほんと?わあ、良かった。サンキュー福本。アイシテル」
アイシテル・・・。
波多野はそういって抱きついてきた。
可愛い、といえなくはないが・・・。
大勢ならともかく、二人で住んで、問題はないだろうか。
波多野はともかく、俺は・・・。

廊下をすり抜けて、猫が入ってきた。
猫。そうだ、波多野は迷い猫みたいなものだ。
ネットカフェを転々とさせるよりは、友達の家に転がり込んだほうがいいに決まってる。それがたとえ、俺の家だったとしても。









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