「嫌って訳じゃ・・・行くところないし」
「寮に入ってもいいぞ。実井がいるがな」
「今更・・・」

福本は再びアクセルを踏んで、車は加速する。

福本の家に帰るのはいいが、ある種の緊張があるのは確かだ。
まさか、毎日ってことはないよな。
まだ腰が辛い状況では、気が重い。
いっそ、気の迷いで、あれは間違いだったってことにならないものか・・・。

「なんだ?人の顔を見て」
「いや・・・」
反省してる感じはしない。
でも、福本は感情が出にくいタイプだからな。

家に着いた。
車を降りて、自分の家のようにあがりこむ。
猫。
スーツを脱いで、シャワーを浴びる。
古い家だから風呂場は狭いが、一応シャワーは出る。
風呂は五右衛門風呂で、なんと薪で沸かすタイプだ。懐かしい。
滅多に沸かさないんだろうけど。

シャワーを浴びていたら、戸口が開いた。
振り返ると、福本が立っている。
「な・・・んだよ。驚かすなよ」
慌てて右手で前を隠した。
「腰が痛いのは本当みたいだな。もしかしたら演技かと思ったが」
「ふっ・・・ざけるな!誰のせいだと・・・」
「まあいい。ゆっくり入れ」
福本は出て行った。俺はぽかんとする。
てっきり・・・いや、それを望んだわけじゃないが・・・。

「覗きかよ。変態ヤロー」
俺は鏡を見た。
少し上気した顔がそこに映った。
俺は頭からシャワーを浴びた。
そうして、福本のことは考えないように努めた。
だが腰の、鈍い痛み・・・。
それが俺のリアルだった。






inserted by FC2 system