波多野を送っていく。
そう甘利たちには告げたが、よく考えたら波多野の家を知らない。
俺は仕方なく、波多野を自分の家に連れて帰った。

俺の家は古びた一軒家だ。
深い理由もなく、ただ安さと立地のよさで決めた。
マンションの人間関係は面倒だし、詮索されるのも好きじゃない。
大家の娘がお節介なことを除けば、理想的な家だ。
人気もなくて、周囲からも隔離されている。が、交通の便も悪くない。

タクシーから波多野を引き摺り下ろすと、肩に担いで、家に入った。
猫がいた。
時々迷い込む猫だ。誰かが飼っているのだろう。無視する。
波多野をコタツに下ろす。
ほんとに無防備だな。D機関員とも思えん。
いや、D機関員だと思えばこそ、気を許すのだろうか。

波多野の寝顔を眺めながら、焼酎を飲む。
波多野は小生意気な性格で、正直可愛くないんだが、寝顔はすこぶる可愛い。
そもそもD機関には可愛い性格と言うのは存在しない。小田切を除いて。

小田切。
徐々に記憶を取り戻しつつあるとはいえ、まだ完全じゃない。
それに、俺のことは完全に拒む。
抱こうとしたら、舌を噛み切りそうになったくらいだ・・・。さすがにショックだった。
トラウマになったくらいだ。
もともとオクテといっていいほど、恋愛には慎重な俺にとって、小田切はやっと手に入れた、高嶺の花だ。
それなのに、小田切は俺を忘れて、しかも、憎んでいる。
そう。
考えたくないが、あの一件以来、小田切は俺を憎んでいるのだ。

「んあ?ここはどこだ・・・?」
波多野が目を覚ました。
「俺の家だ。俺が担いで連れてきたんだ」
「貴様の家・・・一人暮らしにしては広いな」
「古い日本家屋だからな」
「気に入った」
波多野はにんまりすると、いつもの頭の上で腕をM字にするポーズをした。







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