蒲生の舌が歯列を割って押し入ってきた。
ざらりとした舌触りと、ぬめぬめとした蛭のような感触。
全身が総毛だつような錯覚に陥る。

「ん・・・はあっ・・・」
息ができない。
僕は身をよじるようにして、蒲生から逃れようとした。
だが、蒲生の頑健な身体は、鉄骨のように逞しく、僕の逃げ道を塞いでいる。
太い指が、再び僕の顎を捉えた。

二つの、男にしては大きな瞳が僕を見つめる。
冷酷な、いっぺんの感情も宿ってない目だ。
ただ僕を汚すだけのために、僕に侵入してくる舌は、熱くて、ねちっこく、僕の口内を這い回る。
「・・・やめ・・・」
やめてくれ!
言葉に成らない声で、僕は叫んだ。

「いい顔をしますね、森島君」
「なに・・・」
「頼みごとがあるなら、土下座をしなさい。初めて会った時みたいに、卑屈になって」
「なんだと・・・」
土下座をしようにも、身体はがっちりと押さえ込まれていて、身動きが取れない。

「君の怯えた声は好きですよ・・・男らしくて、とてもそそられる」
蒲生は耳元に息を吹きかけた。
「・・・やめろ・・・」
「おや?意外にも耳が弱点なようですね・・・そんなに反応されると、こっちが恥ずかしくなってしまいますよ」
蒲生は僕の耳に息を吹きかけ、囁くと、優しく噛み付いた。

「・・・よせ・・・」
「イヤですか?本当はいいのでしょう?キスよりもこっちのほうが」
蒲生は耳を優しく攻め続ける。

僕は、あろうことか、だんだん気持ちよくなり始めていた。
人よりも多少、敏感な性質もあって、僕はたぶん、感じやすい身体なのだ。
「・・・やめろ・・・あっ・・・」
蒲生がまた噛み付いた。鋭い痛みと、刺激が脳に渡り、僕の意識をぐしゃぐしゃにかき回す。
蒲生が見抜いたように、耳は弱点だった。

「貴方の耳は綺麗だ・・・完璧な一対だ・・・私はこれほどの耳には出会ったことがない」
蒲生がお世辞をいいながら、僕の耳を触り、愛撫しながら、
「この耳を切り取ってしまえば、貴方は一体どうなるんでしょうね?」
と言った。

 
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