「そうそう、エマ、裏のおばさんのところへ、買って来た果物を持っていってくれないか?」

甘利はエマに荷物の中から果物や穀物を分けて渡すと、
「パパ、少しおじさんとお話してくるよ。裏のおばさんのところで、遊ばせてもらっていてね。さっき、お願いしておいたから」
「うん!」
エマは荷物を抱えると、無邪気に笑って駆け出していった。

外から、
「こんにちは!おばさん、エミリーよ!」
とエマの声が聞こえる。

「外へ、行こう」
甘利はドアを開けて田崎を見た。

家の前の道を歩き始めると、後ろから声をかけてきた男がいた。

「修、もう帰ったんだな、マーケットは品が大分減っただろう?」
「ああ、何とか最低限は買えたがね」

甘利とそれだけ会話をすると、男は二人を追い越して角を曲がって去っていった。
が、去り際に、田崎に向かって目配せしたのを、甘利は見逃さなかった。

「あいつと、話をしたのか?」
「ああ、甘利が出かけた後にね、近所の様子を見に外に出たら話しかけられた」
「・・・それで?」
「言い寄ってきたからキスをしたよ」

ギリッと、甘利が奥歯をかみ締めた。いきなり田崎の腕を掴むと、海に向かって早足に歩いた。
田崎は腕の痛みに顔をしかめながら、甘利の後を歩いた。草叢をかきわけて、浜辺へ出ると、木々の間に壊れた漁船が見えた。打ち上げられたのだろう。
甘利はためらいなく岩場を伝って、漁船の甲板にあがった。続いて田崎をひっぱりあげる。田崎が甲板に足をつき、ひっぱられた左手首を撫でながら甘利を見ようとすると、突然肩をつかまれて、甲板に押し倒された。
田崎はそこでやっと甘利の目を見た。ギラギラした激しい目でこちらを睨んでいた。

しまった・・・!言い過ぎたか!

田崎はひそかに後悔した。

「お前、は、・・・一体何を考えているんだ!言えよ!お前が本心を話すまで逃がさない!」
甘利はそういうと、田崎のシャツを乱暴に脱がした。
それから、噛み付くようなキスをした。
田崎が知っているキスではなかった。こんなに激しい感情があるなんて、知らなかった。

「まっ・・・て、あま・・・り、嫌だ、こんなとこ嫌なんだ!」

明るい日差しの中は居心地が悪くて、田崎はたまらずそういったが、甘利は田崎のベルトを外して、衣服を全て脱がせると、田崎を睨みつけながら、自分もベルトを外した。そして、太陽の様に熱い身体を重ねた。

「っ・・・!痛っ」

身体の中を突き抜ける熱に、田崎は身体をよじって甘利を見上げたが、光を背負った姿が眩しすぎて、目を閉じた。
ただ体中を、狂おしいほどの快感が、何度も何度も田崎を襲った。

気がつくと、甘利に抱きしめられていた。すでに日が暮れかかっていた。

「甘利?」

・・・田崎が呼んだが答えない。返事の代わりに、自分を抱く手が強くなった。
「ごめん、甘利・・・。あいつ・・・は、お前を狙っていたんだ。だから、俺はそれが嫌で」
「だからって、お前が相手をすることはないだろう」
甘利は低い声で、感情を押し殺して言った。

「俺は、何をされても気にならない。でも、お前には・・・誰かがお前をそういう目でみるだけで、俺は普通ではいられないくらい嫌なんだ」

田崎は甘利の腕に縋って言った。

「甘利、ここは、嫌だ、帰ろう、一緒に、帰るべきだ」

甘利は子供みたいに縋る田崎を見て、少なからず驚いた。なんだ、こいつも俺と同じだったのか・・・。

満ち潮の波の音が、船のすぐ近くで聞こえた。























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