「サイパンがどこにあるか、指を差したごらん」

田崎が広げた地図をエマに見せて、クイズを出した。
エマは賢そうな蒼い目でじっと地図を睨んでいたが、
「だめよ、おじさん。この地図にはサイパンはないわよ」
と答えた。

「じゃあ、この地図のしたにあったものは何?」
「ボールとオレンジと、ご本よ」
「・・・正解だ」

「なにをしてるんだ?」
仕事から帰って来た甘利は、不機嫌そうに二人を見た。
夕べは結局、田崎を抱くこともできず、もんもんと朝まで過ごした。
いくら甘利でも、エマを引き合いに出されては・・・。

田崎が何を考えているのか、甘利にはわからなかった。

「ちょっとしたクイズだよ。エマは3歳とは思えない知能だよ」
「・・・何のマネだ?エマをスパイにでも仕上げるつもりかよ」
「まさか。遊んでただけだよ」
だが、その遊びは、D機関の入学試験の模擬だ。

「お前・・・わざと俺の気の触ることをしてるんじゃないか?」
「なんで?気に触ったなら謝るよ」
「エマは普通の女の子なんだ。余計な真似はするな」
「・・・過保護だな」
「なんだと?」

「エマだっていつか一人で生きていかないといけない時が来るかもしれないだろ」
田崎は言った。
「本のちょっとの差で、生き延びられるかどうかが決まる。エマだって例外じゃないよ」

「パパたち、けんかはやめて。なかよし、して」
エマはぐずりはじめた。
「ごめん、エマ。パパたちはけんかしてるんじゃないんだよ・・・すぐに仲直りするから」
と甘利は頭の上に手を置いて、エマを慰めた。

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