「ねえ、どうしておじさんとチューしたの?」
3人で食卓を囲んでいると、エマが突然尋ねた。
「・・・単なる挨拶だよ、エマ」
田崎が顔に冷静さを貼り付けて言うと、
「パパはおじさんを愛してるからだよ、エマ」
と甘利が言った。
田崎にテーブルの下の足を蹴っ飛ばされて、甘利は悲鳴を上げる。
「なんでもないよ、エマ。とうもろこしを食べなさい」
と田崎。
「おじさん、ママみたいね」
エマは呟き、首を揺らしながらとうもろこしを食べた。
エマが寝たのを確かめると、甘利は田崎を後ろから抱きしめた。
「だめだよ。エマが起きる」
田崎がすげなく言い、甘利はそれでも手を離さない。
「お前が声を立てなきゃ起きないよ」
「そんなのは・・・無理だ・・・」
抱きしめられる感触が依然とは違う。日々の激しい肉体労働が、甘利の身体を頑健に作り変えてしまっていた。
「・・・なにをしたらこんな筋肉になるの?」
「サトウキビ畑」
「・・・どうりで、探しても見つからない訳だ・・・」
サトウキビ畑とはね。と、田崎は吐息した。
移民の多くが、劣悪な労働条件の、サトウキビ畑で働かされていた。
まさか、都会派の甘利が、そんなところで肉体労働をしているとは、思いもよらない。
「お前のほうから探してきてくれるとは思わなかった・・・」
「・・・忘れてたくせに」
「忘れてなんかいない。毎日、サトウキビ畑から海を眺めながら、お前のことを思い出してたよ」
「でも、別れるつもりだったんでしょう?」
「・・・」
田崎を抱く手に、力を込めた。
「・・・簡単に別れられると思うなよ」
田崎が言うと、甘利は低くかすれた声で頷いた。
「わかった」