ホノルルに着いた田崎は、甘利の足取りを追って、とりあえずホノルルの安宿をしらみつぶしに当たってみた。

オサム・ウツミ。
最後に当たった安ホテルで、その名前を宿帳に発見した時、田崎は思わず快哉の声をあげた。
娘の名前はエミリーになっているが、これはエマをもじったものだろう・・・。
ホテルはパスポートの提示の必要があるために、甘利といえども偽名は使えなかったのだ。偽の身分証とて、簡単に手に入るものではない。時間もなかったはずだ。

ホテルの支配人に話を聞くと、その客は白いスーツを着ていて、めかしこんでいたが、顔の印象ははっきりとしない、娘のほうは可愛い赤毛の女の子で、2歳か3歳くらいだったと語った。
いくら甘利でも、幼女を連れていては支配人の印象に残るのも無理は無い。
甘利は二週間ほど逗留していたが、ふらりとどこかへ旅立ったらしい。行く先は特に口にしていなかったという。

「そうそう、そのお客は黒いテリアも連れていましたよ」
田崎がチップをはずむと、突然思い出したように、支配人が言った。
「なんでも・・・フラテ、という名前でした」

だが、手がかりはそこまでだった。忘れ物の類も、連絡先も、なにもない。
ホテルのロビーで新聞を広げると、下のほうに求人広告が載っていた。
そうだ。甘利は金を持っていない。仕事を探したはずだ。
だが、ここハワイで日本人にできる仕事は限られている・・・。

田崎はトイレに張ってあった、求人広告を思い出した。
健康な男子求ム。

「日本人村か」
肉体労働と甘利は、結びつかないといえば結びつかないが、なんらかの手がかりを得られるかもしれない。


田崎はそう思い、日本人村へ向かった。





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