「お前は俺を愛しているから・・・」

「俺が貴方を愛してるだって?何を寝ぼけたことを」
田崎はそういいながらも、わずかに動揺したようだった。
抱きしめた身体は強張り、汗ばんでいる。

「すぐに思い出す」
そう言うと、甘利は田崎を壁に押し付け、唇を奪った。
「んっ・・・」
田崎はわずかに眉をひそめて苦しげな顔をしたが、そのうちにキスを返してきた。

甘利はそれに気づき、一気に深く口付けた。

服を脱ぐのももどかしく、二人は混ざり合った。
いままで我慢してきたものが、ぷつりと切れた瞬間だった。
甘利の腕の中で、田崎は甘利の名前を何度も呼んだ・・・。


行為が終わると、何故か甘利は不機嫌だった。

「・・・お前、いつから記憶が戻ったんだ?」
「なんのこと?」
田崎はとぼけた。
「さっき、お前、俺の本当の名前を呼んだな・・・最中に」
「そうだっけ?空耳じゃない?」
「とぼけるなよ」
甘利が真剣に怒っているのを見て、田崎は舌を出した。

「ばれたか。実は記憶喪失は一時的なものだったんだ。あの船の中で、俺はもう全てを思い出していたよ」
「船の中?・・・まじか、お前、じゃあずっと俺を騙していたんだな?」


「仕方なかった。それが、貴方を日本に連れ戻す条件だって、結城さんに約束させられていたんだ。しばらく記憶喪失を続けろ。という命令だった」
「あの・・・エロじじい・・・」
「おかしいと思わなかった?甘利だけ拷問に遭ってたのに、俺だけお咎めなしってわけにはいかないって、そういう理由だよ」

「俺は真剣に悩んでたんだぞ?お前の記憶が戻らなかったら、どうしようって」
「悪いとは思ってたよ。でも俺だってね・・・少しは色々考えてたんだ」
「別れることを、か」
それには答えず、

「甘利にとって、何が一番幸せか、俺なりに悩んでいたよ」
「それはお前が決めることじゃないだろ。俺が自分で」
「甘利は捨てないから」
「なに?」

「甘利はエマを捨てようとはしなかっただろ、どう考えても無理なのにさ。それを見て思ったんだ。甘利は無理だとわかっていても、俺を捨てないだろうって。ハワイではできたことも、日本では簡単にはいかない。スパイが一緒に暮らすわけには行かないからね・・・」
そこで声のトーンを落として、

「日本に帰りたがったのは俺だ。覚悟もあるはずだった、けど」

「幸せすぎたのかな・・・俺たち、きっと、あの楽園で」






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