船は横浜についたらしい。

タラップを降りて、何日ぶりかに外に出て、太陽の光を浴びた時、漸く甘利は生きていることを実感した。

船を振り返り、甘利は目を見開いた。

「ジョージ・ワシントン」
船の横にはそう英語で書かれていた。アメリカの軍艦だったのか・・・!

「米国の軍艦をかっぱらったんですか!?しかも大統領の名前の船を!」
甘利が叫ぶと、結城はうるさそうに右手を振って、
「選んでいる余裕があると思うのか。あの状況で」
「よく追っ手が来ませんでしたね」
「戦争のどさくさで拝借してきたのだ。黒煙に紛れて、偽装してきたから、敵は沈没したものと思っているはずだ」

「艦長を脅して協力させたんですか」
「人聞きの悪い。向こうから協力したいと申し出てきたのだ」
結城はニヤリとして、軍艦に向かって敬礼をした。

マストには日の丸が翻っている。

「貴様があんまり腑抜けた目をしていたもんだからな。機密情報をぺらぺらとしゃべるようなら、星条旗もろとも海に沈めるところだった」
結城の言葉を聞いて、甘利は冷や汗をかいた。

やっべー、田崎との情事を漏らしたんじゃないのか?

そう思ったからだ。
だが、自分が海の藻屑になっていないところを見ると、それはしなかったらしい。

タラップを、福本に連れられた田崎が降りてきた。
頭に巻いた白い包帯が痛々しい。
「田崎」
そう呼びかけると、不思議そうにこちらをみた。

記憶を失った、というのは本当らしい。戸惑った顔だ。

「パパ!」
エマが走り寄ってきた。フラテを抱いている。
フラテ、無事だったか・・・。
「エマ」
エマを抱き上げて、もう一度タラップにいる田崎を見上げた。

いいさ、俺のことはユックリと思い出させてやるよ・・・。

「エマの母親は神永が助け出した。東京で待っている」
結城が言った。

「ママ?ママに会えるの?」
エマは、生まれて始めて笑う赤子みたいに、幸福そうに微笑んだ。

ああ、パパとはお別れだ。

甘利は少し寂しそうに、肩をそびやかした。












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