「貴様、なぜそれを知っている・・・」

ざわり、と肌が泡立つ気がした。
普段のもの柔らかい佐伯の物言いとは違う。
「答えろ。まさかまだ、未来がどうのという作り話をするつもりじゃないだろうな」
佐伯が、僕の背中の壁を、どん、と叩いた。
ゆらりと、上背のある佐伯の姿は黒い影のようだ。
その背中の向こうには、暗くて濃い闇が広がっている。
まるで黒い、翼のように。

「言ったでしょう?僕は未来から来たんです・・・未来の貴方とは・・・」
恋人、とは言いがたい。
「結城さんとは・・・」
「俺は結城さんじゃないと、何度言えばわかるんだ?」
佐伯の大きな手が、僕の顎を捉えた。

噛み付くような、乱暴なキスだった。
僕は、壁に押し付けられたまま、佐伯のキスを受け入れた。
キスというより拷問に近い。絡めた舌を食いちぎられそうだ。
身の危険を感じて、僕は顔を背けた。

ほう?と佐伯は声を上げた。
嘲るような、冷ややかな眼差しだ。
「君は結城さんが好きなんだろう?その結城さんに俺は似ているんだろう?どうして俺を拒む?」
「・・・こんなのは・・・嫌です・・・」
愛情の欠片もない。
佐伯はただ、僕に口止めするだけのために、僕を犯そうとしている。

「拒む権利があると思っているのか・・・?」
「・・・でも僕は・・・」

俊敏な動物のように、佐伯はしなやかな身体を伸ばして、僕に襲い掛かってきた。
護身術の心得はあるが、圧倒的な体格差だ。
しばらく抵抗してみたが、簡単に床にねじ伏せられた。

「面白いから、しばらく様子を見ていたが、どうも君は危険なようだ」
腕がもげるほど、締め上げられて、僕は呻いた。
「いい声で鳴くじゃないか・・・もっと聞きたいな、君の声を」
佐伯の左手が、僕のシャツを引き裂いた。

佐伯は僕を滅茶苦茶に犯し、何度も背後から貫いた。
痛みと屈辱とで、ほとんど気絶しそうになりながらも、若い僕はどこかで、そうされることを望んでいた。
初めて会った瞬間から、ずっと僕はそうされるのを望んできたのだ。
それは、僕の願うような形ではなかったけれど。
若い身体は、佐伯に触れられると熱を帯びて、粘土のように柔らかくなった。
僕と佐伯の身体は、ドロドロに溶け合って、ひとつの塊になりそうだった。

馬鹿か君は。
こんなときに笑う奴があるか・・・。

意識を手放す直前に、そんな言葉を聞いた気がする。






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