「・・・すきだ・・・」

その言葉を聞いたとき、僕の中で、懐かしい声が聞こえた。

愛している・・・。

それは繰り返し繰り返し、さざなみのように広がって、僕の心を揺さぶった。

「・・・いま、愛してるって、言いましたか?」
僕が尋ねると、
「愛してるとは言っていない」
佐伯が答えた。

「でも今、確かに聞こえた」

「空耳だろう」
佐伯は僕を抱きしめたまま、そう言った。

「じゃあ、なんて言ったんですか?」

「・・・二度は言わないよ」
佐伯は幾分面倒くさそうに答えた。

「そんな、言ってくださいよ」
「嫌だね」
佐伯は口をへの字に曲げて、押し黙った。

「僕は・・・僕は貴方を・・・」

愛しています。

そう言いかけたとき、階段を上ってくるたくさんの足音がした。
ドアが激しく叩かれて、次の瞬間には、蹴破られた。

「レイジ・サエキだな!?スパイ容疑で連行する!!」
軍服を着た男たちが、部屋になだれ込んできた。

「もう来たのか。来るのが少し早かったな」
落ち着いた口ぶりで、佐伯は時計を見た。
朝の5時半。寝込みを襲ったのだろう。
「悪いが、少し用事ができた。告白は、また今度聞くから」
佐伯は耳元で囁き、立ち上がった。

「支度をするから5分待ってくれ。心配しなくても逃げやしない」
男たちが監視する中で、佐伯は身支度を整えた。
簡単な着替えと貴重品をカバンにしまうと、帽子を胸に当て、
「なぁに、また会えるさ。心配するな」
ニヤリと笑った。

「必ず、戻る」
そう囁いた佐伯の声が、いつまでも耳に残った。







inserted by FC2 system