翌日は、昼を過ぎても、ベッドから出られなかった。
体中が痛くて、手足がばらばらになりそうだ。
佐伯はほとんど野獣そのままだったし、僕は哀れな生贄のようだった。

こんなにめちゃめちゃになるの初めてだ。
そりゃあ、結城さんはいつも多少乱暴ではあるけれど。
それだけ怒っていたのだろう。
正体を見破られたことに。

佐伯はその夜帰ってこなかった。その次の夜も。
あんなふうに僕を抱いたあとで、それでも物足りずに女のところへでも行っているのだろうか・・・。
それなら、まだいいが、秘密警察にでも捕まっていたらしゃれにならない。
また、いつ捕まってもおかしくない身分だ。
まさか、事故か、殺されたんじゃないだろうな。
いろんな想いがぐるぐると脳裏を過ぎって、僕は落ち着かなかった。

明け方になって、漸く佐伯は帰ってきた。随分呑んでるみたいだ。

「おや、まだいたのか・・・とっくに消えたと思ったけどね」
おどけて、佐伯が言った。
「どこに・・・いたんですか?」
「君を壊してしまったからね・・・反省して売春宿にいた」
佐伯は片目を瞑って見せた。
近づくと、酒の匂いと、むせ返るような女の移り香がした。
佐伯は、女のところにいたんだ・・・。
「なんだ?女房でもあるまいし、僕に説教するつもりか」
「佐伯さん」
僕は、佐伯の大きな身体に抱きついた。
酔っている佐伯は、僕を抱いたまま、どすんと床に座り込んだ。

「良かった・・・貴方が無事で」
「・・・・・・嫌にしおらしいことを言う。なにが目的だ?」
「別に。言葉どおりの意味ですよ」
「僕を責めないのか・・・」
「佐伯さん・・・佐伯さんは、僕のことを・・・どう・・・」


「・・・すきだ・・・」
佐伯は、ぽつりと言った。






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