「ひとりになりたい?俺と別れるって言うのか」
真島は低く唸った。
「そうだ」
俺の声は掠れた。別れるという言葉に、心が冷えた。

「嫌だ。俺は絶対にお前とは別れない」
真島の眼がぎらついている。怒っているのだろう。
俺の顔を持ち上げる指が、顎に食い込んでくる。

「もう疲れたんだ」
俺は眼を伏せて、視線をそらした。
「神永、俺を見ろ」
真島は真剣だ。顎に食い込む指が痛い。
俺は真島を見た。
怖いくらいに澄んだ眼がそこにあった。

「頼むよ・・・別れるなんて言わないでくれ・・・」

「俺はっ」
真島の手を振り払った。
「俺はこんな人間じゃないんだ!あんたに出会わなければ、もっと冷静で、正しい判断ができたし、エドワードに惑わされたりもしなかった!全部滅茶苦茶にしやがって、どうしてくれるんだ!!俺をっ・・・俺を・・・俺の・・・」
叫びながら、涙が溢れ出した。
唇が震えて、上手く言葉に成らない。
「俺のプライドはズタズタだっ・・・!あんたに出会ってから・・・全部あんたに出会わなければ・・・よかっ・・・」
強い腕に引き寄せられて、胸の中に抱きすくめられた。


「神永・・・」
「・・・本当はちっとも似合ってない・・・その服・・・あんたはいいからジゴロに戻れよ・・・俺は俺に戻る・・・それぞれ、自分の場所で・・・自分らしく生きるんだ・・・それしか・・・それしかできないんだから・・・俺たちは・・・俺も・・・あんたも・・・不器用で・・・」
そんなところだけ、似ている。
プライドだけ高くて、他人を見下して生きてきた。
ひそかに抱える劣等感の裏返しに。

「ジゴロに戻ったら、お前が一緒に寝てくれないだろう?」
子供をあやすように、真島が言った。
それに、と言葉をついで、
「お前が俺以上に嫉妬深いとわかって、俺は嬉しいよ。一人相撲のような気がしていたからな・・・俺ばっかり、お前が好きで」

真島は相変わらず口が上手い。

俺だって、自分がこんなに嫉妬深いなんて、知らなかったんだ。
「店に戻らないと・・・クビになるぞ」
「ああ。一旦戻ることにする。お前はベッドで待ってろよ」

家で、といわないところが、ジゴロなんだ。





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