「だから〜、この子が僕をつけてきたって言った時に、僕はすぐピンと来たわけ。ああ、これが噂のマジマの恋人なんだなって。顔も綺麗だったし、東洋人だしね。それでちょっとからかいたくなったんだ」

そうだったのか。俺は赤くなった。
素人に悟られるほど、顔に出ていたのか。

「そりゃ、わかるよ。嫉妬むき出しだもん。僕に気があるようなこと言ってくれたけど、いくらなんでも気があるかないかくらい目を見ればわかる」
「エディ」
真島が唸った。
「包丁は下ろしてよ。いくらなんでも怖いよ。日本人は野蛮だなあって思われるよ?」
真島は言われるままに包丁を下ろした。

「どうしてわかったんだ」
俺が口を挟んだ。
「エディが電話をくれたんだ。行きつけのゲイバーに君の恋人といるって。それで慌てて飛んできた」
「僕を殺しに?」
エドワードが口を挟んだ。
「ロブスターを割ってる最中だったんだ・・・ああくそ、クビになるかもな」
いまいましそうに、真島が言った。

だが、エドワードとの親しげな様子や、あのキスを見たからには、そう素直には謝れない。
俺が黙っていると、
「エドワード。ちょっと外してくれ」
真島が言った。エドワードはまだなにか言いたそうだったが、肩をすくめて、カーテンの向こうに消えた。

「キスを見たのか」
真島が低い声で尋ねた。
「見たんだな?」
俺の顎を持ち上げて、瞳を覗き込む。
「ロブスター臭い手で触らないでくれないか」
「今度はロブスター臭いか。まあ、我慢してくれ」
「・・・言い訳は聞きたくない」
「聞きたくなくても聞いてもらう。エディは、情報屋なんだ」
「また下手ないいわけだ。学生だってさっき聞いた」
「学生は本当だけど、小遣い稼ぎに情報を売ってる。ほとんどプロだ」
「・・・そんな風には見えない。お坊ちゃんじゃないか」
「貧乏貴族なんだ。贅沢できるのは、情報のおかげさ。大学では有名らしい」
真島は嘘はついていないようだ。
まばたきもしないし、唇も乾いていない。
「それとキスと、どう関係があるんだ」
「・・・エディはキス魔なんだ。俺からは金を取らない代わりに、キスを寄越せと言ったんだ」
「・・・・・・何の情報だ」
ようやく問題の核心に触れた。

「お前の探している人物、大学の理事らしい」
真島は意外なことを口にした。
「探してるって・・・どうしてわかったんだ」
任務のことは勿論、真島にも言ってない。写真も見せていない。
「たまたま本棚から写真を見つけたんだ。お前が手こずってるみたいだったから、少しでも手伝いたかったんだ・・・」

「頼んでない・・・」
俺は目を閉じた。嫉妬に眼がくらんだ自分が恥ずかしかった。
「俺は・・・俺はもうあんたとはいたくない・・・ひとりになりたいんだ・・・」




















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