「隠さなくてもいいよ。ねえ、席を移さない?奥にふたりだけになれるプライベート席があるんだ。彼について知りたいんだろ?」

エドワードに誘われて、席を移動した。

紫のシルクのカーテンに隠されたその席は、個室のようになっていて、赤いソファが置かれている。ガラスのテーブルには赤い薔薇が活けられていた。

ソファに座ると、エドワードは、
「質問は後だよ。まずは、キスして」
俺の首に手を回す。
「質問が先だ。・・・彼とは付き合っているの?」
「そうだよ。もう2ヶ月になるかな」
2ヶ月。真島が働き始めた時期だ。
「答えたんだからキスしてよ」
俺はゆっくりと、エドワードの唇に唇を重ねた。

「・・・ん・・・はぁ・・・」
エドワードは舌を絡めてくる。
適当なころあいを計って、身体を離した。

「・・・セックスしたのか」
声が低くなる。
「当たり前じゃない。付き合ってるんだから」
エドワードはきょとんとする。
天使みたいな顔が、いっそう幼く見える。
俺は再び唇を重ねた。冷たくて柔らかい唇。真島のとは違う・・・。

俺が再び身体を離そうとすると、エドワードがしがみついてきた。
「ねえ。冗談でしょ?この僕とキスして、キスだけって?馬鹿にしてるの?」
「君は真島が好きなんだろ?」
「関係ないよ。この店で僕に恥をかかせないでよ」
「君・・・」
真摯な瞳で見つめられて、俺はたじろいだ。
だが、真島に裏切られた気持ちが大きくて、正しい判断ができない。
この天使を傷つけたい気持ちで一杯になった。
俺がぎらついた眼でエドワードを剥こうと、手を伸ばしたそのとき、カーテンが開いた。

「おいっ!!こんなところで何してやがんだ!!」
そこに立っていたのは、出刃包丁を握り締めた、コック姿の真島だった。
「真島・・・」
その迫力に気おされて、俺は絶句した。

「あー、いいところだったのに。残念」
エドワードは言った。
この性格・・・ちょっと、実井を思い出す。
かなり、歪んでいる。
「マジマも落ち着いてよ。ちょっとした冗談なんだからさ」
エドワードは身体を起こすと、物憂げな瞳で真島を見つめた。









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