「マジマ。面会だ」
「面会?誰だ」
「弁護士の先生だとよ」


留置場の陰鬱な空気の中で、俺は真島と面会した。
「お前・・・」
俺の顔を見た真島はしゃがんだまま絶句している。
まさか、俺が来るとは思わなかったのだろう。

「人を刺したにしては元気そうだな」
「・・・お前に会えるとは思わなかった」
「迷惑はかけない、とか言わなかったか?」
「すまない・・・お前を侮辱されて、思わずかっとしちまったんだ」
「俺を?」
エドワードの話と違う。

「あの客は俺に気があったんだ。相手にしていないのにしつこかった。どこで見かけたのかお前のことも知っていて、<あんな黄色い日本人のどこがいい、あんなのは見れば分かる、売春婦の息子だ>って・・・言いやがった・・・」
そうだったのか。
俺はてっきり、図星を指されて激昂したのだとばかり思っていた。

「この国じゃ日本人なんて猿以下に思われてるって知っててもさ・・・お前は俺から見たらお姫様みたいなもんだし・・・どうしても我慢できなかった」
「・・・お姫様って、なんだよ・・・」
俺は赤くなった。
「自分じゃわからないんだろうが、観音様みたいな顔してよ、ピカピカの靴にツイードの上着で決めてるお前は・・・最初から、
薄汚いジゴロの俺には手の届かない高嶺の花だったんだよ」

「・・・過去形で話すんだな」

「お前・・・いや、あんたがなにしにきたか、わかってる。お別れを言いにきてくれたんだろう?それだけでも俺には充分過ぎる位の優しさだ」
「真島」

「サヨナラはいわないでくれ。サヨナラは冷たすぎる・・・再会っていうのがいいな。中国語の挨拶だ。また会おうって意味だよ・・・俺は・・・今まで誰にも言わなかったけど、本当は上海で生まれた。中国人なんだ」
真島の澄んだ目が俺を見上げる。

「再会もいい言葉だと思うけど」
俺は言った。

「俺は日本人だから日本語で言うよ。あんたのこと、ずっと、待ってるから・・・」
「神永。希望をもたせないでくれ。希望は残酷すぎる」
真島は檻を掴んだ。その手を俺は包んだ。

「悪いな。俺は残酷なんだ・・・」

世界の終わりは君と・・・沈む夕陽を眺めていたい。
10年でも20年でも、君を待ち続ける・・・。










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