「なんだろう。先輩たちの視線が痛い」

食堂で、食事中に葛西が呟いた。
宗像ははっとして、すばやく周りを見回した。
確かに、小田切、福本、甘利、田崎、そして神永、波多野、実井・・・。
見てないふりをしているが、葛西に視線を送っている。

やめろ、俺の葛西を見るな!
宗像は胸の中でそう叫んだが、勿論聞こえるはずもなく。
視線は止みそうになかった。

葛西は秋刀魚を半分残して、立ち上がった。
そして、小田切に尋ねた。

「なにか僕に・・・用事ですか」
「いや・・・なぜだ」
「僕を見ていましたね」
「俺が?気のせいだろう」
小田切は平然としている。他のメンバーもそ知らぬふりで、食事を続けている。

「そうですか・・・なら、いいです」
葛西は身を翻して席を離れた。

一斉にため息が漏れる。
宗像はぎょっとした。これは・・・どうなっているんだ?
まるで一期生が、葛西に懸想しているみたいではないか・・・?

そういえば、葛西を見ていたメンバーは、あの抱き枕を買った人間である。
偶然の一致か、それとも・・・。

「葛西!待て」
小田切が席を立った。それに呼応するように、他の一期生も席を立つ。
小田切を先頭に、福本、甘利、田崎、神永、波多野、実井が、廊下を駆け出して行く。

葛西が危ない!
宗像は椅子を蹴倒すと、慌ててその後に続いた。

葛西の部屋から悲鳴が聞こえた。
「葛西!」
宗像がたどり着いたときには、一期生はほぼ葛西に乗りかかっており、将棋倒しになっていた。
「葛西!好きだ!愛してる!」
一期生は口々にそう叫びながら、手足をばたつかせていた。



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