「どうしたんだ、この荷物」
「部屋を替えても無駄なことがわかったからな。戻すんだ」
「葛西・・・」
「言っておくが、僕に近づくな。半径一メートル以内」
秋元が顔を出した。
「本当に戻るのか?葛西」
「ああ」
「ふうん。まあ、俺は別にいいけど・・・」
口とは裏腹に納得いかない顔で、秋元は二人を見た。
「貴様ら、なんかあったのか?」
「なにもない!」
葛西は、冷たく言い切った。
「嬉しそうにするな。気持ち悪い」
「何とでも言え。俺は嬉しい」
「あー、早く一人部屋が欲しいな」
葛西はそう言って、前髪をかきあげた。
もしかして、ゆうべ抱かなかったことが、葛西に安心感を与えたのだろうか。
だとしたら、それは単なる誤解だ。宗像は別に安全なわけじゃない。
ただ、じっと我慢していただけだ・・・。
それは苦しかったが、こうして葛西が同じ部屋に戻ってくるとなると、その痛みも無駄ではなかった。
葛西は、自分にこれからも我慢を強いるのだろうか。
それとも・・・。
「なんだ、人の顔を見て」
「なんでもない・・・」
抱き枕が必要なのは、自分かもしれない。
そう宗像は思った。
抱き枕ならば、文句はいわないだろう。