「目を閉じてろって・・・」

中瀬は、目を見開いたまま、瀬尾の身体を押した。

「できないよ。僕は・・・」

「すぐに済みます。大丈夫です」
「瀬尾さん」
瀬尾の唇が中瀬に迫った。
中瀬は覚悟を決めて、目を閉じた。
瀬尾の唇が中瀬の唇に触れた。
「んっ・・・」
中瀬が小さな吐息を漏らした。その時。

ジー・・・カシャッ。

「何だ今の音」
中瀬の目が鋭くなった。音は、瀬尾のベルトのバックルからだ。
「おい、それ・・・もしかしてカメラか?」
「あ・・・」
「寄越せ」
「あ〜だめです〜それは〜」
中瀬は瀬尾のベルトをしゅるんと外すと、そのバックルを確かめた。
小型カメラだ。

「貴様・・・これで僕の恥ずかしい写真を取ろうとしてたのか?」
「いえ、そんな滅相もない・・・」
「問答無用だ!」

中瀬はカメラの蓋を開けて、中のフィルムを引き出した。
「あ〜〜〜貴重映像が!!」
瀬尾が悲鳴をあげた。
「うるさい。くだらないものを撮りやがって」
中瀬はフィルムを引き出せるだけ引き出すと、力一杯引きちぎった。

「あ〜・・・勿体無い」
瀬尾は泣いている。
「危うくムードに流されるところだったよ。ご苦労さん」
中瀬は、カメラを瀬尾に返して、上着を取った。
「どこにいくんです?」
「帰るよ。君と一緒だと、自分の身が心配だからね」
「もう電車はありませんよ。泊まっていってください。なにもしませんから」
瀬尾は取りすがった。

「歩いて帰る」
中瀬は瀬尾を蹴飛ばして、帽子を被ると部屋を出た。







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