ゴッ!
側頭部に強い衝撃が走って、俺は激しい痛みに呻きながら目を見開いた。
え?実井?
そう言おうとした俺の口を、実井の左手が塞いだ。

自分の置かれた状況を理解するのに時間がかかった。
頭が痛い。それが、酒のせいなのか、殴られた痛みなのか定かではない。
押さえつけられた頭で、目だけを動かして辺りを見回すと、見知らぬ部屋に実井と二人でいる。
確か、瀬尾と居酒屋で飲んでいたはずだ。
酔っ払ったのか・・・?
瀬尾は?
実井を見ると、ベッドの端に腰掛けて、人差し指をたてて唇にあてた。色っぽい仕草、でも、明らかに不機嫌そうだ。

俺は居酒屋で魔王の熱燗を飲んだ後、食べ物が出てくるのが遅かったためか、かなり酔いが回ってしまったらしい。
どういうわけか、瀬尾は実井も呼んでいた。実井が合流して、もう一本頼んだところまでは覚えている。

寝てしまったのか・・・。実井はサイドテーブルから、ペンとメモを手繰り寄せると、さらさらと書き始めた。
<駅前の宿屋。瀬尾が宿をとって帰った>
酔っ払ったから気を利かせたのか?
<あいつ、意図的なのが気に入らない>

瀬尾は実井を好きなのに、先に帰った。俺に気を使ったのか?いくらなんでも、遣いすぎだ。実井が怪しむのも分からなくはない。
実井は音も立てずに立ち上がると、部屋のあちこちを見て回った。なにか、仕掛けられているっていうのか?
瀬尾が?俺たちを盗聴でもしてるって?
あいつに限ってそんなことあるはずだが・・・。
だが、それはとらわれている、と結城さんに言われてしまいそうだ。
あいつがもし何かを仕掛けたとしても時間はなかったはずだ・・・。

俺は部屋を見回して、入り口の横に置かれたキャビネットの底を覗いた。ああ、当たりだ・・・。
瀬尾が俺たちを盗聴・・・。まさか、スパイだっていうのか??

嫌な汗が出てきた。あいつが前からの友達だったからって、信用しすぎたんじゃないか??俺は額の汗を拭うと、実井に盗聴器を指し示した。
実井は小さく舌打ちした。
俺は実井に見えるようにペンを走らせた。
<これは精度がいいぶん、遠くでは聞けない。同じ宿にいるはずだ>
実井は頷くと、
<じゃあ、僕が探しに行くから、僕に合わせてよ>
芝居をしろってことか。

「波多野、いいかげんに起きて!」
「ああ?なんで、実井が?」
俺はさも寝起きのように合わせる。
「なんでもいいでしょ、酔っ払い」
「なんだよ・・・」
「波多野が寝ちゃうから、忙しいのにこんなとこで暇を持て余さなきゃいけなかったんだけど、どうしてくれるの」
そういってベッドに座る俺を押し倒して、馬乗りになって笑う。
実井は芝居とはいえ、途中までは本気じゃないかってくらいの演技派だ。ほんと、本気じゃないかな・・・。
「はぁ?頼んでないんだけど」
「そういう態度?生意気!口を塞いでやらなきゃだめだね」
え?
実井は俺の腕を掴むとひねりあげて、ポケットから出したロープをベッドに縛り付けた。
「な、なにすんだよ!馬鹿力!むぐぅ!」
同時に口もタオルで塞がれた。
はぁ!?芝居だろ!?何しやがる!
「ほら、これで少しは静かになったね。大丈夫だよ、優しくしてあげるね」
ふざけんな!
ロープを解け!
俺が足でベッドの枠を蹴りつけたりして暴れると、その音に紛れるように実井が部屋を出た。あぁ、そういうことね。音を出せって?でも、これ、解いてくれないの?

「んんーー!んーー!」
俺は大袈裟に唸り声を出して足で暴れた。
ガンッガンッと音が宿屋に響いて、隣部屋の扉が開く音がする。
これ、見に来たりされないよな??

しばらくそうしていると、ノックする音が聞こえた。
「おつかれ、もういーよ」
実井が笑顔で入ってきた。
その手には、瀬尾が引きずられるように連れられていた。

























































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