「はぐらかしてなどいませんよ」
抱きしめても平賀は動かなかった。
髪からは甘い香りがした。
「貴方を大切に思っていますよ、ロベルト」
「わかっている。それで、満足すべきだな」
平賀を愛することは、神に対する反逆なのか・・・。
だが、溢れ出す気持ちはもう抑えられないほどだ。
平賀の顎を捉えて、瞳を覗き込んだ。
黒く神秘的な瞳。わずかに悲しみが潜んでいる。
「そんな顔をするなよ」
「ロベルト。神を裏切ることは出来ません」
唇が後わずかで重なる前に、ロベルトは顔を逸らした。
二人で堕ちることはない。
苦しむのは俺だけで沢山だ。
神よ。
人を愛することが罪なのか・・・。



「甘利」

ゆさぶられて目を覚ます。
「平賀」
「平賀?誰です」
一瞬混乱した。目の前にいるのは平賀じゃない、三好だ。
そして俺はロベルトじゃない。
あれは・・・夢か?

「寝ぼけてるんですか?結城さんが呼んでますよ」
俺は無意識に三好に唇を近づけた。
キス。
三好はかわさなかった。

「急いでください。冗談はこのくらいにして」
三好は唇を手の甲で拭った。

ロベルト。
堕ちるのはひとりで、だと?
俺なら二人で堕ちようといえた・・・
腰抜け神父め。神の裁きを怖れているのか・・・。

それにしても三好の奴。
キスも受けるなんて、どういうつもりだろう。
俺は、三好の平賀によく似た顔を眺めながら、ふいに焦燥に囚われた。












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