「どうしたの。波多野。そわそわして」

実井に声をかけられた波多野は、
「いやー、なんかほら、貴様は俺になにかを渡したいのかなと思って」
「なにを?何も持ってないけど」
「そうだよな・・・」
「?変な波多野」
肩をすくめて実井は行ってしまった。

神永が、
「ちゃんと言わないと伝わらないと思うぞ」
「いや、いいんだ。別にチョコレートなんて好きじゃないし・・・」
「でも欲しいんだろ」
「欲しくない。全然欲しくないから」
「素直じゃない奴・・・」

だが、神永自身、真島に渡せる自信はなかった。
男が男にチョコレートなんて、恥ずかしすぎる。三好の素直さが羨ましい。
「あま・・・」
神永は部屋でひとり、チョコレートを頬張っていた。

実井は出かけたようだ。
まさか、誰かにチョコを渡しに行ったんじゃないだろうな。
俺は別に欲しいわけじゃないけど、気になる。

夜、実井が帰って来た。
「実井。どこに行ってたんだ」
「ちょっとね。もしかして僕を待ってたんですか?」
「待ってない」
「じゃあなんで玄関に突っ立ってたんですか」
「たまたまいただけだよ」
「ふ〜ん」
実井は意味ありげに微笑み、小さな袋を波多野の胸に押し付けた。
「ちゃんっと買ってきましたよ」
「え?なにこれ・・・チョコレート?」
「ふんどしです。今流行りなんですって」
「ふんどし?な、なんで・・・」
「チョコレートなんてありきたりのもの、つまらないでしょう?」

チョコレートが良かった・・・。
複雑な気持ちで、波多野は褌を受け取った。
褌には勇気!と太い字で書かれていた・・・。


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