俺のシャツだけを着た神永に、コーヒーを渡すと、神永はそれを両手で持って、しばらく眺めていた。
「飲めよ」
俺が促すと、カップに口をつけた。
頬に赤みが差し始めた。

「今日は泊まっていけよ」
そういうと、神永はわずかに怪訝な顔をした。
「心配しなくても、もうなにもしねーよ。・・・お前が心配なんだ」
俺はムッとして、そう言った。
「・・・すまない」
「謝るなって。俺はただ・・・」
ただ、なんだ。
お前を温めたかっただけ?
陳腐な言い訳だな。
状況に流されたのは俺のほうじゃねーか。
くそ・・・動揺してるのも俺だけか・・・。

「お前が・・・」

たった一夜だけの情事。
そんなことは慣れているはずなのに、歯切れが悪くなるのは、神永がよく知っている・・・前世からよく知っている・・・同僚だからだろう。
友達ではないが、妙に照れくさい。
今までなんとも思っていなかった相手を意識するのは。

「俺が、なに?」
神永が視線を上げた。そうすると、年上の筈なのに少年のような目つきになる。
随分落ち着いているな・・・。
いや、俺が落ち着かせたんだが。
かえってこっちが落ち着かない気分になってきた。

「真島は・・・ニセモノだったんだろ?だったら」
「偽物?ああ、確かに結城さんはそういっていた・・・面差しが似ていただけで」
「じゃあそんなに悲しむなよ」
ああクソ。
こみ上げてくるどす黒い感情は覚えがある。嫉妬、だ。

「わかってる・・・」
神永は俯いた。

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