「機嫌直せよ」

甘利は田崎の肩を抱いて、囁いた。
「三好をお前にやるから」

「そういうことなら」
田崎が僕に迫ってきた。
左手を掴み、手首を口元に持っていく。
「いい匂い・・・香水かな?」
「ちが・・・」
かぷっと、田崎は手首に噛み付いた。
「っ・・・!!」
僕は顔をしかめて、視線を逸らす。

ああ、力が抜ける。
田崎が僕の血を吸っている間、甘利はにやにやしながらそれを見ていた。

「甘い・・・」
口元を拭って、田崎が僕を突き放した。
似合わない乱暴さで、僕はよろけた。
甘利が背後から僕を支える。
「乱暴にするなよ」
「甘いのは好きじゃない」
田崎は部屋を出て行った。

「なんだ?嫉妬か?」
訝しそうに甘利が言って、
「大丈夫か、三好」
と僕の顔を覗き込んだ。
「誰のせいです」
僕は甘利を睨み、その体を押しやった。

「結城さんに会いたい」
「いまはだめだ」

どうして結城さんが僕を生かしたのか、その理由を知りたい。
それが僕の望む答えでも、そうでなくても。

「時がくれば、いずれ会える。お前のこと、忘れたわけじゃないよ」
甘利が麻薬のような優しい言葉を囁いた。




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