英国。オックスフォード大学、クライストチャーチ。
12世紀に修道院として始まったこのカレッジは、数あるカレッジの中でも名門で、多くの首相を輩出した。

有崎晃は21歳。
英国に留学して6年目になる。
無事オックスフォード大学に進学して、2年目の春を迎えた。

「君、知ってる?英国では同性愛は死罪なんだよ」
突然話しかけてきたクラスメイトを迷惑に思いながら、
「その程度のことは知っている」
有崎晃は答えた。
オスカー・ワイルドが男色罪で投獄されたのは、そう昔でもないはずだ。

「僕はラドクリフ。ラドクリフ・グレイス。君はアキラ・アリサキだよね。よく知ってる」
「・・・・・・」
有崎も、名前と顔くらいは知っていた。

白いプラチナブロンドの髪。グレイの瞳。ビスクドールのような顔をしている。
少しつり上がり気味の目元は、高級なシャム猫を思わせる。唇は赤い。
差し出された手。
掴むのは躊躇われた。
一年も同じクラスに所属しながら、今更挨拶するのもおかしな感じだった。

「日本人はシャイなんだね。君は一年も誰とも口を利かなかった」
「話す必要はない」
「僕ら、賭けをしてたんだ。一番初めに君と口を利いた者が負け。どうやら、僕の負けみたいだ」
「・・・くだらない遊びに付き合ってる暇はない」

芝生から立ち上がり、背を向けて立ち去ろうとする有崎の手を、ラドクリフは掴んだ。

「君はシャイなんかじゃない。高慢なんだ」
「高慢?」
「皆話してるよ。君のプライドは<子爵>なんかじゃない、<公爵>並だとね」

「高慢なのは貴様らのほうだ」
手を振り払い、有崎は言った。






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