ヨーロッパで戦争が起きた為、次の任務を中断して、帰国した神永は、事務所のデスクの前に立っていた。
「スリーパーが<フライデー>だというところまではわかりましたが、ひとつ、わからないのであります」
「なんだ」
「先日の告白の返事は、どこにもありませんでした」
緊張した面持ちで、でもこれだけは外せないと、神永は訴えた。
「返事がない?おかしなことを」
結城が呟く。
「もしかして、ストーリーでしょうか?<ロビンソン>と<フライデー>が主人と従者の関係にあった・・・それがなにかの暗示なのでしょうか」
「そんなことではない」
「ストーリーは無関係だとおっしゃるのですか?」
「その様子だと、あの本を炙ったり水につけたり、できることはやったようだな」
「特殊な仕掛けは発見できませんでした。それとも、まだなにか、あの本には意味があるのですか」
真剣すぎる神永の問いかけに、結城中佐は珍しくため息をついた。
「あの本にはそれ以上の意味など、最初からない。貴様が無事に帰還した今、本は役目を終えたのだ。燃やすなり溶かすなり好きにするがいい」
「そんな!できませんよ!結城さんが初めてくれたプレゼントなのに!」
気のせいか頭痛がしてきた。若さとは厭わしいものだ。若者はばか者。よく言ったものだ・・・。
「神永。貴様の告白は聞かなかったことにしておく。もういい、下がれ」
神永は納得のいかない表情のまま、一礼して出て行った。
「馬鹿が」
結城はひとりごちた。