身を翻して、立ち去ろうとする有崎を、ラドクリフは追いかけた。

「待てよ、どこへいく」
「ここを出て行く。潮時だ」
「はぁ?卒業はどうする気なんだ」

「卒業することに何の意味がある?必要な知識は得られた。もうここに用はない」
「そんな馬鹿な・・・君は、認めるのか?自分がスパイだって」

「俺がスパイかどうかなんて関係ない。スパイとは疑われた時点で終わりなのだ」
その言葉は真に迫っていた。
「否定しないんだな・・・!僕らを騙し、利用して、そうして去っていくのか!」

「それは貴様がいつも友達に対して使う手だろう?しっかりしろ、グレイス。
俺たちは友達でさえ、ない」

「有崎!」

路地の角を曲がった時、ラドクリフは有崎の姿を見失った。


ねぇ、君知ってる?英国では同性愛は死罪なんだよ・・・

自分が戯れに投げかけた言葉。だが、

生きることは時に、死罪よりも苦しい・・・。

彼は行ってしまったのだ。永遠に。

スパイ疑惑という黒い謎だけを残して。

いっそ、あのキスのとき、一思いに殺してくれたら良かった。

そうしたらこの胸の張り裂けそうな痛みも、感じないでいられたのに・・・。

ラドクリフは握った拳を、思い切りレンガ塀にたたきつけた。









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