どんなに冷たく接しても、ラドクリフは有崎を諦めなかった。

「英国人の執念深さには頭が下がる」

ボードリアン図書館の書棚の間で、有崎はラドクリフに言った。
「僕だってこんなことはしたくない・・・追いかけられるのは慣れてるけど、追いかけるのは初めてなんだ。あんまり恥をかかせないでくれ」
ラドクリフの声はよく響いた。続けて、
「クライストチャーチにも図書館はあるのに、なんでボードリアンまで来るかといったら、君に会えるからだ。別にここにくれば英国出版の本が全て揃っているからじゃない」

「俺がここに来るのは、誰にも邪魔されたくないからだが」
有崎は、ラドクリフの顔の右横に、乱暴に手をついた。
「俺の邪魔をする以上、責任は取ってもらおう」

「人が来る、誰かに見られ」
ラドクリフの唇は黒い影に塞がれた。
こんなところで・・・。
だがキスは、冷たく熱く執拗に繰り返されて、ラドクリフを追い詰めた。

ラドクリフがうっすらと目を開けた時、有崎の背中に真っ黒な翼が生えるのを見た。

(なんだ・・・?悪魔・・・・・・?)

「どうした。俺が怖いか」
男は言った。
ラドクリフを覗き込むその目は、黒く、光のない、死神の目だった。

(魔王・・・だったのか)
ラドクリフは再び、心臓を氷の手で掴まれたような痛みを感じた。

(そうとも知らずに僕は・・・君の事を)

ラドクリフは魔王の腕の中にくず折れた。





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