<あらすじ>
佐久間と結婚した三好は、ある日昔の恋人、結城と再会する。


「久しぶりだな」
懐かしい声。
振り返って心臓が止まりそうになった。
結城さん・・・!!
無意識に左手を隠したが、指輪は外していた。
「こんなところで、貴様に会えるとはな・・・」
「それは・・・こちらのセリフですよ・・・」

薄暗いバーのカウンター。僕の隣に、結城さんは座った。
「同じものを」
僕が飲んでいたのは白ワインだ。結城さんには少し甘いかもしれない。
結城さんの前に、グラスが来た。
結城さんは軽くグラスを持ち上げて、
「乾杯といこう」
そう囁くと、グラスを空けた。

ここに来たのは偶然だろうか、それとも・・・。いや、そんなはずはない。
結城さんと別れたのはもう2年も前だ。今更僕を待ち伏せたりするはずもない。
それとも、そうなのか?佐久間と結婚したのを知って・・・。
それとも、何も知らずに・・・?
疑問がぐるぐると脳裏を巡る。
だが、喉がつかえて何もいえなかった。
何か言えば、目から熱いものが溢れてきそうだった。

無言のまま、時が流れた。
結城さんはグラスを何度も干し、そして、煙草を吸った。
美しい手で煙草の灰を灰皿に落として、それから薄い唇に銜えると、
「でよう」
と言った。
僕は魔法にかかったように、結城さんのあとをついていった。


気づいた時にはホテルにいた。
結城さんは僕の左手の指を愛撫しながら、
「・・・指輪の痕・・・佐久間、か?」
一瞬、強く僕の指を噛んだ。
鋭い痛みが麻酔のように僕の身体を犯し、麻痺させた。
「結城さん、僕は」
言いかけた言葉を、結城さんの唇が塞いだ。




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