福本「すまん、三好。風呂が壊れた」
三好「えっ・・・今からいくとこだったのに・・・」
小田切「皆で銭湯に行こうと話していたところだ」
三好「銭湯・・・か。仕方ないな」

田崎「皆揃ったかな」
甘利「波多野は?」
波多野「風呂なんて入らなくても死にはしないのに」
実井「えー。僕はフケツな人はちょっと・・・」

神永「行こうか」

全員で歩き始める。暗がりとはいえ、イケ面ばかりの集団に、人々が振り返っていく。

三好「目立ってますね。僕達」
小田切「平常心だ。平常心」

銭湯「神の湯」

玄関の引き戸を開けて中に入ると、お爺さんが番台に座っている。
「ひとり20円ね」
全員中に入る。
脱衣場に入る。籠がおいてあるだけの、シンプルな部屋。

三好「無用心だな。服を盗まれたらどうするんだ」
小田切「貴重品はロッカーにいれるようになっている。大丈夫だ」
神永「風呂からあがったらフルーツ牛乳を飲まないとな」

引き戸を開けて、順番に風呂場に入る。
大浴場には富士山の絵が。手前は洗い場になっている。
年寄りが3人いるだけで、あとは無人だ。

三好「結城さんも来れば良かったのに」
田崎「三好、お年寄りを見て結城さんを連想するのはやめろ」
小田切「風呂の時くらい、結城さんのことは忘れていたいよ」
福本「同感」

実井「どうでもいいけど。神永さん、前を隠してくださいよ」
神永「どうして?男だけなんだからいいじゃん。貴様も隠すなよ」
実井「ちょ・・・やめてくださいよ。怒りますよ」

神永「ほーらほらほら」
実井「神永さんてば」
波多野「神永。そいつを怒らせないでくれ」

三好「なんでぴったりとくっついてくるんだ、貴様ら」
田崎「風呂が狭いからだよ」
甘利「そうそう。俺たち大きいからさ」

小田切「ふー、いいきもちだ」
福本「自分たちで炊かなくていいなんて、最高だな」
小田切「いつも貴様が炊いてるんだろう?」
福本「いや、交代制だよ。お前、やってないのか?」

三好「のぼせそうだから、もう出るよ」
田崎「相変わらず早いな・・・」
甘利「相変わらずってなんだ」

順番に風呂場から脱衣場に戻る。

神永「フルーツ牛乳ください。実井、お前も飲む?」
実井「え?おごってくれるんですか」
波多野「悪いな、神永」
神永「誰も貴様におごるとはいってねーぞ・・・」

三好「さっきから、あの番台の老人の視線を感じるんだけど」
田崎「まあ、監視するのも仕事だから?」
小田切「俺もフルーツ牛乳飲もうかな・・・コーヒー味にしようかな」
福本「コーヒーにしろ。そして半分くれ」

小田切「コーヒー牛乳ください」
老人「売り切れだ。別の店を当たれ」
小田切「えっ・・・、その声はまさか・・・」

老人は結城中佐だった。番台から学生たちを監視していたのだ。

三好「一緒に来たいなら来たいって言えばいいのに・・・」
田崎「何をしてるんですか?そんなところで」
結城「貴様らの身体の出来具合を観察していた。まだまだだな。明日から寒中水泳を2時間にすることにした」

神永「・・・悪魔だ」
小田切「いや、魔王」

せっかく銭湯で暖まった心を、木枯らしが吹き抜けていった。
なにものにもとらわれてはいけないのだ・・・。僕達は。




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