二人が寮に帰ると、なぜか神永が待ち構えていた。
「田崎!・・・甘利さんも一緒だったのか?」
「神永。帰って来ていたのか」
神永はなんらかの任務を帯びていたらしく、しばらく姿を消していた。
「貴様を待ってたんだ。田崎、ちょっと部屋に来てくれよ」
そういいながら、神永は田崎の腕をひっぱった。
ふと、背後に殺気を感じた。甘利だ。
「どーしたんですか?甘利さん、怖い顔して」
背後を振り向いた神永がきょとんとしている。
「・・・なんでもねーよ・・・風呂入って寝るわ」
「どーしたんだろ、甘利さん。超不機嫌で」
神永が田崎を見上げると、田崎は困った顔をして、
「さあね・・・どうしたんだろうね・・・」
と答えた。
だいたいあいつは誰にでもいい顔をしすぎなんだ。
と、甘利は思った。
三好、波多野、実井、小田切、福本・・・そして神永。
D機関の学生たちのほとんどと、田崎は仲がいい。
田崎が三好に惹かれていたのは本当だろうが、端正な外見と、優れた知能を持ち、また人当たりのソフトな田崎は、誰からも好かれる男なのだ。
一見付き合いやすそうに見えるが、実のところはガードが固く、誰も心には入り込ませない。そんな性格と分析していたが。
知らないことが多すぎる。
田崎が酔って自分を誘い込んだのも意外だったが、その身体は男に慣れたものだった。あの調子だと、自分以外に誘った男もひとりやふたりではあるまい。
知らない男なら、まあ、仕方ないとも言えるが、相手が同じ学生たちのうちの誰かだとすると・・・許せない気がした。
それにしても、と、甘利は吐息する。
田崎には言わなかったが、男を抱くのは初めてだった。
あんなにいいものだとは知らなかった。
女よりいいはずがないと、どこかで高をくくっていたのだ。
それでも旨くいったのは、やはり奴が慣れていたからだろう・・・。
先ほど、神永の部屋に入った田崎はまだ出てくる気配は無い。
そんなに長く、一体何を話しているのだろうか・・・。
スパイの習性で聞き耳を立てたくなるのを我慢して、甘利はベッドに横になった。
ある意味、地獄だ。
事前に予測していた事態が本当になった。
これからは、田崎が誰としゃべっていても、笑っていても、カードをしていても、風呂に入っていても、常に気に触り続けるのだろう。
嫉妬の牢獄。
そんな言葉が浮かんで、甘利は強く目を閉じた。