優しい音が聞こえる。
窓ガラスに触れて流れる小さな音。
窓枠の木の濡れた香り・・・。
外を走る車の低くこもったような音。
肌に感じるじっとりとした湿度。
まとわりつくシーツ。

瞼を閉じていると、微かに届く日差し。
ーー今朝は、雨か・・・。
田崎は横向きにベッドに寝たまま、ぼんやりと目を開けた。
窓越しに見える外の世界は、霧のように降る雨に包まれて、音をなくしたようだった。
冬の寒さが和らいで心地いい。
それでも、身体を冷やされてしまったのか、少し痺れを感じて身動きすると、自分の腕に重なる大きな手に気がついた。

ゆっくり顔を上に向ける。そして、自分を見つめる優しい視線に捕らえられた。
体の芯がゾクッと震えて、小さく息を吐いた。
「甘利・・・」
掠れた声で呟くと、
「おはよう。・・・田崎」
そう言って甘利はその唇をそっと田崎の瞼に落とした。

「いつから、起きてたの?」
「さあ?」
「人の寝顔を見るとか、やめてくれないか」
「そうだな・・・」
それでも、甘利は田崎を見つめたまま・・・、
「仕方ないさ」
そう言って、今度は唇に重ねた。

雨の日のしっとりした空気が肌に絡み付いて、二人の肌を重ねれば、その離れがたい感触に、融けていく様に求めてしまう。
「ダメだよ。今日は休みじゃないんだから」
できるだけ冷静なふりをしてそう突き放すのに、
「まだ、早いから大丈夫さ」
そう一蹴された。
そんなことを言って、いつもギリギリまで行為に耽って、慌てて支度をしていくことになるのに・・・。
俺だって、時間に間に合うかひやひやしてしまうのに・・・。

それでも、田崎はまた甘利の口付けを受け入れた。
また、お互いを求めてしまう。
舌を絡める音が、頭の中で響いて、何も考えられなくなる。
「ダメだよ・・・」
そう言いながらも、この行為が、気の狂いそうな訓練を受け入れるために必要だと俺は知っている。
蓄積された沢山の情報や知識を、頭の中に刻み付けるために必要な行為だと、俺は知っている。
甘利の触れたところから、真っ白に塗りなおされて、俺はまたどんな事でも受け入れられる、化け物になれるんだ。

それは、もしかしたら、甘利も・・・。

雨に朝陽が当たって、きらきらと輝いた。
もうすぐ、雨がやむーー。























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