「女が嫌いというわけではありません。得意ではありませんが」
僕が否定すると、
「そうですか」
と田中は答え、お茶の入った湯飲みに目を落とした。
端正な顔をしている。眉は凛々しく、鼻筋は通っている。
「真木さんは、どんな絵がお好きなんでしょうか」
「ミレーなんかは好きですね。実に詩的だ」
「オフィーリアですか・・・僕もあの絵は好きです」
ひとしきり、美術談義をした後で、田中が言った。
「好かったらこの後、ディナーに行きませんか。ひとりだと味気なくて」
「ディナーだけですか?」
僕は前髪を払って、そう尋ねた。
田中は傍目にわかるくらい赤くなった。
「もちろん、よかったらその後も・・・」
「いいでしょう」
と僕は言った。
ディナーの後、バーへ移動した。
「僕はお酒は飲まないんですよ」
「じゃあ、ノンアルコールカクテルを頼みますか」
田中はメニューを開いて、ノンアルコールカクテルと、ジンを注文した。
「学生にしては手馴れていますね」
僕がからかうと、
「飲みにくらいは行きますからね」
と田中は答えた。
「酒は全然やらないんですか?」
「ええ」
「もしかして、僕を警戒しているんですか」
「まさか」
そう答えたが、田中の言うことも当たっている。
酒は理性を溶かす。その気があるのでなかったら、一緒に飲むのはまずい。
「警戒するってことは、意識している証拠ですもんね。僕は嬉しいです」
「僕を口説いてどうするつもりですか?海軍のスパイさん」
僕は言った。