「離せ」
秋元の手をふりほどいて、俺は言った。

「貴様の言うとおり、俺は葛西を抱いたばかりだ。ひとりにしてくれ」

「葛西の面影を抱いて、ひとりで寝るのか?」

「悪いか?」

「ふられたな」
秋元は言って、ベッドから立ち上がった。
「気が変わったらいつでも言ってくれ。待ってるから」

そういい残して、秋元は部屋を出た。


「やれやれ」
自分のベッドに横たわる。
秋元め。何を考えているんだ?
いままで、そんなそぶりはおくびにも出さなかったくせに。
俺はポケットから名刺入れを取り出した。
中から、葛西の写真を取り出す。
中瀬から、隠し撮りを高値で買ったものだ。
残念ながら横顔だが、割合よく撮れている。

昨日の今日で、もう恋しいとは。どうかしている。
葛西は今ドイツに向かう舟の上だろう。
どうしているだろう。
誰かに誘惑されていないだろうか・・・結城中佐は?

俺はため息をついて、写真を名刺入れに閉まった。
それをポケットに戻し、目を閉じる。

目を閉じると、ゆうべの葛西の泣き顔に似た表情が思い浮かぶ。
深く貫いた時の。
月明かりの中で浮かび上がった白い背中。
そうして、俺の名前を呼んだ・・・。

葛西。お前を抱きたい。
どこへもいかないように、強く抱きしめていたい・・・。
俺は身体を丸めて、膝を抱えた。
そうして、葛西を思った。







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