「中瀬さん。どうしたんですか、こんな時間に」

瀬尾は、眼鏡の奥の瞳を輝かせていった。

「瀬尾さん、僕との事、秋元にしゃべったな?」
「えっ・・・そんなことしませんよ」
「嘘をつけ」
「本当にしてません」

僕は、瀬尾の顔をじーっと見つめた。嘘はついていないようだ。
瞬きも、右上を見ることもしない。
人は嘘をつくと、必要もないのに瞬きをしたり、右上を見たりするものだ。

じゃあなんで、秋元はあのことを詳しく知っていたのだろう。
瀬尾に聞かなければ、バックルのカメラのことまではわからないはずだ。
「まさか・・・催眠誘導か?」
瀬尾を催眠状態にして、聞きだしたのなら話は別だ。
本人は無意識のうちに、情報は抜き取られてしまう。
秋元は、催眠術が得意だ。可能性はある。

「中瀬さん。嬉しいです」
唐突に、瀬尾は言って、抱きついてきた。
「なにするんだ!」
「こんな時間にわざわざ俺に会いに来てくれたんですね?理由まで作って」

瀬尾は、スーパーポジティブに物事を考える。
ほとんど、思考能力が宙に浮いている感じだ。
実際に起きたことよりも、ずっと自分に都合よく物事を捉える。
「誤解だ!僕は本当に・・・」
「中瀬さん」
瀬尾は見かけに寄らず力が強い。僕は抱きしめられて窒息しそうになった。
「こないだはすみませんでした。カメラのこと。あれ、わざとじゃないんですよ、誤作動したんですよ。俺はそりゃあ、中瀬さんの写真は欲しいですけど・・・でも、卑怯なまねはしませんよ。信じてください」
「わかった。わかったから離せ。苦しい」
「信じてくれたんですか?」
急に呼吸が楽になった。
瀬尾は、腕をゆるめて、僕を解放した。

「じゃあ、写真を一枚撮らせてください。俺のベッドに寝ている姿を・・・」
瀬尾の真剣な顔が、間近に迫った。
僕は思わず、力一杯瀬尾の頬を張り飛ばしてしまった。









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