「葛西なんて、ただの世間知らずのお坊ちゃんじゃないか。どこがいいの」

「お前にはわからない」

「ああ、そう」
俺が唇を重ねようとすると、秋元は顔を背けた。
「キスはなしだよ。恋人じゃないから」

そういって、俺をおしやり、自分で胸のボタンを外した。
「抱いていいよ。飢えてるんだろ?」

秋元といると、自分が獣かなにかになったかのようだ。
秋元に操られているような錯覚さえある。

行為の最中も、そのあとも、奴は汗ひとつかかなかった。
まるで魂のない人形を抱いているみたいだ。

抱き終わっても、空虚だった。
何も残らない。
味気ない、砂を噛むような思いだけが、残った。

「がっかりした?ごめんね」
秋元は言った。
「いや・・・すまなかった・・・」
「謝るなよ。還って傷つく」
軽く睨んで、秋元はだが、切れ長の眼を彷徨わせて、
「でもいいんだ。望みは叶ったから。一度、君と寝てみたかったんだ。それだけ」

「そっちこそ、がっかりしたんじゃないか?」
「君ほどじゃない。俺は満足だよ」
俺の腕枕で、秋元は目を閉じた。
長い睫が、白い頬に影を作る。

ふいに、秋元がいじらしくなった。
身体を投げ出して、俺の自惚れを満足させてくれたからだろう。

とても、愛とは呼べないが・・・。
男は、抱いている最中はその対象を愛している。
そんな言葉を思い出した。








inserted by FC2 system