「気がつきましたか?」

目を開けると、覗き込んでいる二つの目にぶつかった。

「すみません。彼は乱暴で」
田中だ。口調が元に戻っている。

「彼?」
「僕の中にいる別人格です。新見、といいます。寝ている間に乗っ取られてしまった」
新見。
「信じてはもらえないかもしれませんが、貴方と寝たのは新見ですよ」
田中は言って、僕の額に手を置いた。

「熱はないようですね」
「何の話だ。別人格・・・?」
「動かないで。手当てをします」

田中の言っているのが、事後の処理だということがわかると、僕はかっとなった。
「いい。自分でできる」
「そういわずに。まだ、動けないはずですよ」
田中の言うとおり、身体は鉛のように重い。
田中に何度も逝かされて、疲労しきっていた。

田中はタオルで僕の身体を拭いて、毛布をかけた。

「僕は海軍の多重人格スパイの実験体なんですよ。新見のほかに、聡子、という幼女もいます。もっとも、聡子は泣くばかりでなにもできませんけどね」

「なぜ、そんな話を僕に?」

「それは」
田中は笑いながら、
「僕と貴方はもう、すでに恋人同士だからですよ。新見は貴方に惚れてしまったようです。もっとも、彼、結構惚れっぽいんですけどね・・・今も、僕と貴方の会話に嫉妬しながら、聞いていますよ。聡子は寝ています。家族みたいなものです」

多重人格スパイなど、聞いたこともない。待てよ。一期生の中に、確かそんなのがいたな・・・。
「僕も記憶がないわけじゃないから、僕と新見とで貴方を共有したことになる。だから、僕にも感情はありますよ。これから、貴方の行く先々で、お目にかかるかもしれませんね」
田中はグラスに水を注ぎながら、そう囁いた。






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