「何で起きたんだろ」
「知りませんよ!僕のせいじゃないですから」
「俺のせいなのか・・・?」
「どいてください」
のろのろと、波多野さんが身体を外した。
僕は下着とボトムをつけて、身だしなみを整えると、赤ん坊を抱っこした。

「よくみると、波多野さんに似てますね。目元が」
「そうか?」
「似てますよ。垂れ目が」
「誰が垂れ目だ!」
聴こえたのか、赤ん坊はふいににっこりとした。
「なんだ。笑ったぞ」
「笑いましたね・・・」
二人で覗き込んでいると、本当に夫婦みたいだ。
だが、僕らは男同士だ。間違っても子供ができることはない。
神に祝福されたふたりにはなれない・・・。

「波多野さん」
「なんだよ」
「子供、欲しいですか?」
波多野さんは少し怪訝そうな顔をした。
「どういう意味だ?俺たちの子供って意味か?」
「・・・違いますよ」
僕が否定すると、波多野さんは目を眇めて、
「じゃあ、いらねーよ。ガキなんて、面倒だし・・・セックスは邪魔するし」
「子供とセックスとどっちが大事なんですか?」
「セックスに決まってるだろ!」
「じゃあなんで、子供なんか連れてきたんですか?」
「仕事だから仕方ねーだろう!!」
波多野さんが声を荒げると、びっくりした赤ん坊は再び泣き始めた。

「嫌なら断れば良かったんですよ・・・」
僕が小さな声で言うと、
「甘利先輩に押し付けられたんだ。『あ〜そういえば、波多野んちには、恭子ちゃん(実井のこと)がいるんだったよな?ちょうどいいじゃん。赤ん坊をみせてやれよ』って」
「甘利先輩が・・・」
「『恭子ちゃん、きっと喜ぶぜ』とかって言うから・・・つい」
波多野さんは頭を掻いた。
「僕が男だと知ってて、嫌味のつもりなんじゃないんですか?」
「あの人はそういう性格じゃないよ。すごく、イイヒトなんだ」

それじゃあ、波多野さんは僕が喜ぶと思って、赤ん坊を連れてきたわけだ。
どうりで、赤ん坊を連れてきてからの波多野さんは随分テンションが高かったわけだ。空気の読めない波多野さんは、僕が迷惑がっていることも、本気にしなかったんだろう。
「お前こそ、子供、欲しいのかよ」
拗ねたように、波多野さんが尋ねた。
「随分、そのこに入れ込んでるみたいだけどよ」
僕が赤ん坊に入れ込んでいる?どうしたらそうなるんだ。
僕は赤ん坊がうるさいから、黙らせようと仕方なくあやしているだけだ。
「どうしたらそんな馬鹿げたこと思いつくんでしょうね」
僕は、赤ん坊に向かってぼやいた。

赤ん坊は明け方まで泣き止まなかった。
僕はすっかり寝不足のまま、次の日を迎えた。
条件は波多野さんも同じなのに、さすが警官なのか、けろりとしていた。
ただ、ちょっと、欲求不満・・・。

ぴんぽ〜ん♪
朝。チャイムが鳴った。
出ると、噂の甘利先輩だった。
「お〜おはよう♪恭子ちゃん。昨日は大変だったでしょう。寝不足な顔だね〜。波多野いる?」
寝不足な顔は余計だ。僕はむすっとして、波多野さんを振り返った。
「甘利先輩。どーしたんですか。朝から」
波多野さんは出勤の準備をしていたところだ。警官のシャツを着ようとしている。
「赤ん坊☆身元引受人・・・ママが現れたってさ」
「えっ?本当ですか!?」
「本当本当。一件落着だな」

僕と波多野さんはベッドに寝ている赤ん坊を見やった。
赤ん坊を返す・・・。
「あ、恭子ちゃん、寂しそうな顔をしたね」
目ざとい甘利先輩が、からかうようにそういった。

寂しい?冗談!そう思ったけど、赤ん坊がこれからどうなるのか、心配せずにはいられなかった。























inserted by FC2 system