「あー、腹一杯。ごっそーさん」
波多野さんがおやじみたいに言った。

「あ、赤ん坊の沐浴をさせてください」
「え、俺が!?」
「桶の中でガーゼで撫でるだけでいいみたいですよ。僕が渡すから簡単ですよ」
「桶なんてないだろ」
「衣装ケースでもいいらしいです。ひとつあけますよ」
「ん〜じゃあ、呼んだら連れてきてよ」

先ほど起きた赤ん坊を抱っこしてくる。
波多野さんは全部僕に聞いてくるけど、はっきりいって僕だって赤ん坊を抱っこしたこともなかった。
ネットの情報があっても、やってみると思いも寄らないことがあるものだ。
現に今僕は、赤ちゃんのオムツをどの時点で外すかだけで悩んでいる・・・。
さっきオシッコをかけられたから、警戒しているのだ。
「ええぃ!ままよ!」
オムツを外すと案の定危険な代物が目に入った。
「わわっ!」
慌ててオムツをかぶせる。
じんわり温かいものを感じた。
「・・・。セーフ・・・」
「おーい、いーぞー」
なんて呑気な声だ。こっちは今、戦いの真っ最中だと言うのに。

肌着一枚にした赤ん坊を抱えて台所に行くと、やけに嬉しそうな波多野さんが、床に座って手を伸ばしていた。
その手に渡すと、温かいお湯を浅く張った衣装ケースの中に身体を浸けて湯をかける。浅すぎだけど、寒くないかなぁ。
「おわっ!滑っていっちまいそうだなぁ!気持ちいいか〜?なんて顔してんだよ」
温度の心配をよそに、波多野さんはやけにテンションが高い。
ガーゼを渡すと、赤ん坊のからだを撫でていく。
「実井!実井!ここも洗うのか?」
「え?はい、もちろんですよ」
さっきもオシッコが出たところだし。
「・・・ふーん・・・」
すこし沈黙する波多野さん。
「じゃあ、遠慮なく」
「え」
ガーゼを湯に浮かべて、肌着をぺろんとめくる。
え、なんか、見すぎでしょ。
「へー、赤ん坊のってのは、また全然違うのな。ははっ」
そういいながら、指先で持ち上げる波多野さん。
なんか、それ、どうなんだ?

「ちょっ、ガーゼを使ってくださいよ!」
「えー?だって痛いかも知れないだろ?」
「だって、つまんだりしなくていいんですよ!」
「じゃなきゃ洗えないだろー?」
「洗えますよ!ちょっと、代わってください!僕が洗いますから!なんか、やらしいんですよ!」
「やらしい!?」
僕は波多野さんの向井側に座ると、湯に手をいれて、赤ちゃんの身体を支えた。
それでもまだ残っている波多野さんの手をペチンと叩くと、波多野さんは不満そうに手を引っ込めた。
「なんだよ・・・、あ、まさか、嫉妬?」
ニヤニヤして僕の顔を覗き込んでくる。
腕まくりしてヤンキーすわりみたいにして、衣装ケースの縁に手をかけている波多野さんは、ちょっといつもと違っていたずらっ子みたいだ。
僕が無視していると、波多野さんはさらにいたずらっ子の顔を近づけて、

「それとも、自分がされるのを想像しちゃった?」
と囁いた。
































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